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2007.03.26 英国の薬剤師事情レポート(日本社会薬学会フォーラム)

21日、共立薬科大学マルチメディア講堂で行われた、平成18年度日本社会薬学会フォーラム“薬剤師への期待と未来”に参加してきました。当日は、3名の演者が講演を行いましたが、なかでも興味を引いたのは、「英国薬剤師の社会的機能−拡大しつつある守備範囲、その背景と将来像−」という題で英国の薬剤師事情を紹介した葛西美恵先生(英国ヨーク大学 ヘルス・エコノミクス修士 英国ロンドン大学 臨床薬学修士)の講演です。

本サイトの最近の話題で、たびたび英国の動きを伝えていますが、それらの話題の補足を含めて、いくつか紹介します。

1.薬剤師は処方監査に専念、供給と調剤はテクニシャンが行う

日本でいうところの処方監査以外の調剤実務はテクニシャンによって行われていて、薬剤師はスクリーニング(処方監査)、調剤業務の管理、リピート処方せんなどの業務に専念している。

このスクリーニングは、国主導で作成されたガイドラインのNICE(従来の治療と新しい治療の経済評価によって作成。約300以上)、NSF、SIGN、BNFなどに沿って行われ、臨床的・経済的に処方内容が適切であるかの判断が行われる。

  • NICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)
  • NSF(National Service Framework)
  • SIGN(Scottish Intercollegiate Guidelines Network)
  • BNF(British National Formulary)

関連情報:TOPICS 2006.10.12 認知症治療薬の使用制限(英国)
          2006.06.29 β遮断薬は高血圧症の治療に使われるべきではない(英国)
          2006.04.20 吸入型インスリンは費用対効果が十分でない(英国)   

2.調剤業務はできる限り簡素化

英国では、可能な限り28錠や30錠といった小包装のままで販売が行われる(追記:他の欧州各国も同様)。日本では薬剤師が当然のように行っている散剤・軟膏・水剤の混合は禁止(追記:米国も同様?)されていて、教育病院などのごく一部でしか行われていない。

小児や嚥下困難患者には、既製品の発泡剤・チュアブル錠・液剤などで対応。液剤の混合も水を加える懸濁液のみ可能。これにより、調剤ミスがおこりにくく、テクニシャンによる調剤が可能に。

3.ラベル記載内容は全国統一

日本では、薬局間に違いがあるラベルの記載事項(服用上の注意事項)は、重要なものを中心に統一化して、どこの薬局でもらっても患者を混乱させないようにしている。(33項目の中から該当するものを印字)

Cautionary and advisory labels for dispensed medicines(BNF)
   http://www.bnf.org/bnf/extra/current/450051.htm

また、日本の「くすりのしおり」に該当する、患者向け文書(PILs)は患者に渡すことが義務付けられていて、各小包装単位ごとに製造時に封入されている。(逆に、医療従事者向け文書=添付文書は封入されていない)

関連情報:患者向け医薬品情報(Keywords)

4.代替調剤は認めずも、GE調剤率は高い

英国では、地域薬局での代替調剤は認められていないが、一方で一般名処方が8割以上に達している。

また、保険で償還される薬剤費は、特許の切れている場合にはGE医薬品の価格までしか償還されない(日本で以前話題になった参照価格制度に該当?)。このため、全体におけるGE調剤率は60%近くに達している。

5.地域薬局が行う保健指導にも報酬が支払われる

禁煙指導(日本の医師が行う禁煙外来にほぼ近い内容)やクラミジア検査など、地域薬局が行う健康指導などにも報酬が支払われる。(但し、指定された薬局に制限。薬局選定には入札も。)

たとえば、クラミジア検査には41ポンド(約9500円。うち相談料19ポンド、検査キット代22ポンド)、禁煙指導には初回、2回目が15ポンド(約3400円)、その後各5ポンド、最終回が15ポンドが支払われるという。

関連情報:TOPICS 2005.11.23 薬局でクラミジア検査キットを無料配布(英国)

6.PGD(Patient Group Direction)

緊急性を必要とする薬剤に限り、薬剤師や看護師も要処方せん薬を投与することが出来る。

投与できる対象の症状・状況・対象薬剤は、事前に一次医療機関を統括する機関(PCT:Primary Care Trust)で地域ごとに決められている。

TOPICS 2007.02.13 バイアグラを処方せんなしで試験販売(英国)

7.MUR(medicine use review)

患者と面接し、服用状況や副作用などの確認をし、問題点がある場合には医師への変更を依頼するというコンサルティング業務。実施するかどうかの判断は、薬剤師が決める。

報酬は1人あたり年間19ポンド(PSNCサイトによれば、2006年10月からは25ポンドに)で、一薬局あたりの上限は10000ポンド(400人まで)と定められている。

参考資料:Medicines use review: Understand your medicines
      (Department of Health 2005.12.1)
       MURについて記したリーフレットです

      Advanced Services MUR form review - testing the new form(PSNC)
       http://www.psnc.org.uk/index.php?type=page&pid=107&k=2       

8.薬剤師に処方権

英国では、医療機関へのアクセス改善や、医療資源の有効利用として、医師以外の医療職にも処方権を認めている。当初は医師の治療方針に沿って、用量や頻度の変更など、補足的に処方する(supplementary prescriber,2003年〜)というものだったが、最近では、薬剤師の専門分野・能力の範囲内での処方(Independent prescriber,2007年1月に第1号誕生)も可能になるなど、権限が拡大している。

(但し、5〜8の業務については、実地研修などのトレーニングなどが必要)

参考情報:
Improving patients' access to medicines: A guide to implementing nurse and pharmacist independent prescribing within the NHS in England(Department of Health 2006.4.12)

最近になって、葛西先生の著書を入手し読みましたが、英国では国策として、薬剤師を保健活動やプライマリケアに有効活用する方向にあることが改めてが感じ取られました。興味ある方は、是非一読をおすすめします。(下記の「英国ファーマシスト最新事情」よりリンクします))

英国では基本的に医療が国営であるなど、日本とは比較にはなりませんが、6年制の薬剤師がこういった分野での有効に活用できるような仕組みが日本でも取り入れられればと感じます。

関連情報:英国ファーマシスト最新事情(薬学生諸君WEB)
       https://www.yakugakuseishokun.com/contents.asp?concode=1
      日本社会薬学会
       http://www.syakaiyakugaku.org/
      TOPICS:2007.03.14 薬局における健康教育のためのツール(英国)
       調剤室から消えた薬剤師、葛西美恵(ドラッグマガジン社 2006.2)

4月13日更新

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