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第83回アポネットR研究会報告

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平成18年2月8日(水)  会場:足利市民プラザ

参加者:約150名(うち薬剤師28名)

講演会

「子どもの軽度発達障害」

〜親・周りの大人たち・医療関係者は
どう接したらよいか〜

今回のアポネットR研究会は、日頃足利市内で子育てに関する情報を発信するグループの「あしかが子育て応援ネット(URL:http://www.watarase.ne.jp/kosodate/)」の方たちとの共催で行われました。当日は薬剤師のみならず、保護者・保育士などこのテーマに関心のある多くの方に参加を頂きました。

予想以上の参加者に、会場に入れなかったり、資料が間に合わないなど、ご迷惑をおかけしました。この場を借りてお詫び申し上げます。

講演1:学校における発達障害をもつ子どもたちに対する取組み
       講 師:高橋 良男 先生(足利市立第二中学校校長)
講演2:軽度発達障害の治療と子どもたちへの支援体制
       講 師:道廣 成実 先生(あしかがの森足利病院 副院長)


講演1

学校における発達障害をもつ
子どもたちに対する取組み

講 師:高橋 良男 先生
(足利市立第二中学校校長)

1.特殊教育から特別支援教育へ

1.どこのクラスにもいる特別な支援が必要な子どもたち

どこのクラスにも、「落ち着かず離席が目立つ」「友達とのトラブルが絶えない」「一斉の指示だけでは、授業参加が難しい」といった、何人かの気になる子どもたちがいます。文部科学省の調査では、通常の学級に全体の約6.3%いるといわれ、足利市の調査でも6%の割合で在籍していることがわかっています。

※資料
 「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」調査結果
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301i.htm
 (今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)中の資料2:文部科学省2003年3月28日)

これは、今にはじまったことではなく、以前からこういう子どもたちはいて、その都度、先生方がいろいろな指導をしてきました。これにより、落ちつかない子どもでも、ある程度指導していくうちに落ち着いて、友達とのトラブルがあっても改善していく、学習に取り組めるようになっています。

しかしながら、こういった子どもたちの中には、指導をしても十分に成長ができないという子どもも一定の割合でいるのが現状です。そういった子どもたちに対して行われているのが、特殊学級などのいわゆる特殊教育です。

2.特殊教育の現状と課題

現在、小・中学校等に就学して教育を受けている児童生徒のうち、特別な支援が必要な子どもたちに対しては、特殊学級(足利市には知的・情緒・難聴・弱視の学級があります)の他、通常の学級に在籍してほとんどの授業を通常の学級で受けながら、ある時間だけ特別の指導を受けるという通級指導教室(足利市における「ことばの教室」がこれにあたります)、さらに障害の程度の重いお子さんについては、養護学校などで指導を受けるなど、一人一人の教育的ニーズに応じた教育が行われています。

しかし、このような形で別の場で教育を行うという現在の特殊教育は、本質的には「区別」ということに変わりありません。子どもたちの社会的な能力を伸ばすことを考えた時には、いろいろな面で不都合があります。そこで現在では、障害のある子どもたちが、通常学級の子どもたちや一般の人たちと交流を行うなどの統合教育・交流教育というのが行われるようになっています。

※資料
  特殊学級及び通級による指導の現状と課題
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801/009.htm
  特殊学級、通級による指導の現状
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801/s003.htm
(特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申):文部科学省・中央教育審議会2005年12月8日)

3.特別支援教育とは

こういった、特殊教育の果たしてきた役割や障害のある子どもの教育をめぐる諸情勢の変化を踏まえて現在すすめられているのが特別支援教育です。この特別支援教育というのは、障害のある子どもたちと通常学級の子どもたちをいっしょにつつみこむという、インクルージョン(包括)という概念に根ざしたもので、今日の社会が求める、「障害のある方にある物理的なものをプラスしてあげて、一般の方と同じ能力で社会参加ができる」という、ノーマライゼーションの社会を目指す上でもその基本的な理念と考えられます。

特別支援教育とは、「障害のある児童生徒等の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点にたち、児童生徒等一人一人の教育的にニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導や必要な支援を行うもの」と定義されています。

ここでいう、「障害のある児童生徒等」は、病気や情緒障害など、ある程度の障害の重い子どもだけではなく、いわゆる「落ち着きのない」といったより障害の軽い子どもたちも含まれます。

特別支援教育啓発資料1〜小・中学校で特別支援教育を進めるために
(栃木県教育委員会 平成17年3月)より引用


上図のように、狭義の特別支援教育とは、通常の学級におけるLD・ADHD・高機能自閉症といった子どもたちに対する教育のことを指し、ここでは、特性に応じた教科指導や人間関係などに配慮した学級経営を行われ、不登校や不適切な行動をとるなどの二次的な障害の予防・軽減が図られます。

一方、広義の特別支援教育とは、狭義の特別支援教育と従来の障害児教育(特殊学級や通級指導教室での教育、盲・聾・養護学校における教育)などをまとめたものをさします。

この特別支援教育は平成19年度からの実施が予定されていて、現在全ての小中学校の先生に対する研修が行われる一方、小・中学校長会の中にプロジェクトチームをつくって準備がすすめられています。

※資料
 今後の特別支援教育の在り方についての基本的な考え方
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801/004.htm
 特別支援教育の対象の概念図
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801/s001.pdf
   (特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申):
    文部科学省・中央教育審議会2005年12月8日)

 ADHD及び高機能自閉症の定義と判断基準(試案)・実態把握の観点(試案)、指導方法
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301j.htm
 (今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)中の資料3:文部科学省2003年3月28日)

  LD、ADHD、高機能自閉症の判断基準(試案)、実態把握のための観点(試案)、指導方法
  http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/01/04013002/010.htm
(小・中学校におけるLD(学習障害),ADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)中の資料1:文部科学省2004年1月30日)  

4.広げたい特別支援教育の概念

私は、広義の特別支援教育の概念は、通常学級の子どもたちに全員に関わるもの、教育に求められている姿だと考えています。なぜなら、特別支援教育の考え方の本質は、一人一人の子どもたちをどうやって理解していくのかにあるからです。この特別支援教育の視点こそが、今の教育を変えていく視点になるのではないかと考えています。

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2.特別支援教育を推進するための体制づくり

1.特別支援教育コーディネーター

特別支援教育が、従来の特殊教育と大きく異なる点がいくつかあります。その一つとして、まず、各学校に調整役としての特別支援教育コーディネーターが設けられている点があげられます。

この特別支援教育コーディネーターは、「各学校において、障害のある児童生徒の発達や障害全般に関する一般的な知識及びカウンセリングマインドを有する学校内及び関係機関や保護者との連絡調整役としてのコーディネーター的な役割を担う者」として位置づけられており、校長のリーダーシップの下、指導内容や支援体制を担任や保護者、校内委員が協力・連携し、組織的に子どもの支援が行えるように、中心となって学校全体で組織的に特別支援体制をつくりあげるという大きな役割を担っています。

特別支援教育啓発資料1〜小・中学校で特別支援教育を進めるために
(栃木県教育委員会 平成17年3月)より引用


2.特別支援(教)室

また、特別支援教育を推進するため、特殊学級とは別に、各学校に特別支援(教)室を設置することが提言されています。

この特別支援(教)室は、軽度発達障害の子どもたちが1日中指導を受ける場、ある時間だけ指導を受ける場、週のうちの何回かだけ指導を受ける場など、さまざまな形態が現在検討されています。そこには一応、専属の教員がつくということにはなっていますが、現実的には学校の中でやりくりして、交代で指導するという形になりそうです。

※資料
   「特別支援教室(仮称)」の構想について
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801/010.htm
(特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申):文部科学省・中央教育審議会2005年12月8日)

3.限定的な取組みから、学校全体の取組みへ

特別支援教育と同じような取組みは、従来からなかったわけではありません。しかし、ほとんどの学校では担任の先生やある特定の先生が行う、個人的な指導になりがちでした。そこで、今回の特別支援教育を推進するにあたっては、学校の組織そのものをもっと活用して指導することや、学校全体の課題として取り組んでいくことが提言されています。

当面は担任の先生が中心になって行うことになりますが、指導の困難を感じた場合には、さらに学年主任の先生に相談するなどを通して、校内委員会での検討・方針決定などが行われます。つまり、校内の組織資源を生かした支援体制を組んで、教育的支援の検討と個別指導計画の作成が図られることになります。

※資料
   総合的な体制整備に関する課題について
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801/017.htm
(特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申):文部科学省・中央教育審議会2005年12月8日)

参考:特別支援教育啓発資料1
      小・中学校で特別支援教育を進めるために(栃木県教育委員会 平成17年3月)

文責:小嶋慎二

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講演の関連サイト等を紹介します。

特別支援教育について(文部科学省)

 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)(文部科学省2003年3月28日)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301.htm

小・中学校におけるLD(学習障害),ADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)の公表について
  (文部科学省2004年1月30日)

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/01/04013002.htm

特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)
  (文部科学省・中央教育審議会:2005年12月8日)

概要:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801/g001.htm
     資料:盲・聾・養護学校から特別支援学校へ(PDF:103KB)
         小・中学校における特別支援教育の推進(PDF:77KB)
    ※概要・資料は、今回の配布資料としても使用されています。

  全文:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801.htm
  参考資料:学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)及び高機能自閉症について

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講演2

軽度発達障害の治療と
子どもたちへの支援体制

講 師:道廣 成実 先生
(あしかがの森足利病院 副院長)

1.発達障害とは

発達障害とは、人が発達する過程において獲得していくさまざまな能力が、何らかの原因によって障害された状態をいいます。 障害のされ方により、ひとりひとりの状態は違っており、その原因もさまざまですが、医学的には原因を問わず共通した症状や傾向を示す状態を一括して発達障害と呼んでいます。

発達障害には、精神遅滞、自閉症、特異的発達障害、注意欠陥 ・多動障害(ADHD)などがあります。今日は、ADHDと、自閉症を中心にお話したいと思います。

※2005年に4月に施行された発達障害者支援法では、『「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。』と定義されています。

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2.注意欠陥・多動障害(ADHD:Attention-deficit hyperactivity disorder)

1.概念

ADHDとは、精神年齢に比べて、不適当な注意力障害や衝動性・多動性を示す行動障害のことをいいます。不注意も多動も衝動性も子どもなら誰でも見られますが、その行動が他の同年代の子どもに比べて非常に強く、その結果自分自身が困ったり、周囲の子どもを困らせたり、トラブルを招いたりしている場合をいいます。

有病率は2〜3%、4〜6倍男児に多いということが知られており、脳の機能や神経伝達物質の異常、遺伝などの先天的素因と、社会環境や養育状態などの環境要因の相互作用によることが原因ではないかと言われています。

知的能力は、多くは境界線(IQ70〜85)以上ですが、認知能力のアンバランスを認めることがあります。

診断は、DSM-Wに従い行います。

DSM-Wとは、アメリカ精神医学会が発行している「精神障害の診断と統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)第4版の略称で、精神医学の世界で最も大きな影響力を持った診断基準です。米国内はもとより、日本でもこの分類に基づいて診断名のつけられることがしばしばあります。現在の最新版は、修正の加えられたDSM-IV-TRになっています。

※ADHDの診断基準については、埼玉県小児医療センターHPにわかりやすく記載されています。
  ADHDの診断 http://www.pref.saitama.lg.jp/A80/BA03/05section/sinkei/adhd.html#lnk2

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2.チェックポイント

それでは、どのような症状があるとADHDと疑われるのか、以下に具体例を示します。

●就学前
・おもちゃを取り合う ・順番が待てない ・口で説明するのが苦手 ・何かあるとすぐに手が出る ・朝から癇癪を起こす ・朝の支度に手間どる ・着替えが遅い など

●学童期
・自分勝手 ・短気 ・欲求を満たすことを先に延ばせない ・待つことができない ・指示に従うのが難しい ・整理整頓ができない ・忘れ物やなくし物が多い ・字を丁寧に書かない ・関連のない発言をして授業を妨げる  ・その子の持っている知的な能力に比べて、学業成績が振るわない など

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3.症状

症状は、注意力障害・多動性・衝動性の3つの基本症状の他、発達・認知面、行動・精神面、身体面などの症状を併発したり、周囲の人との関連性の中で二次的な問題を生じることがあります。

基本症状は、成長と共に改善する傾向があります。多動性は10歳くらいまでに落ち着きますが、小児期ADHDと診断された子どもは、 不注意や忘れ物などの軽度の注意力障害や、じっとしていられないなどの軽度の多動性といった症状を、高校生・大学生の60〜80%、成人の30〜50%に残す場合があるといわれています。

(1)注意力障害

注意・集中時間が短く、気が散りやすいということをいい、一つのことを最後まで集中してできない、ケアレスミスが多い、話を最後まで聞けない、言いつけを守れず、途中で投げ出してしまう、根気が必要な仕事をいやがる、忘れっぽい、ものをよく失くす、などがこれにあたります。

(2)多動性

多動性には、席をたってうろうろする、電車のなかを走り回るなど、次から次への動きまわるといった症状を示す移動性多動と、座っていても絶えず手足を動かしたり、机の上のものを切ったりするなどの症状を示す非移動性多動の2つがあります。

(3)衝動性

かっとなりやすい、考えずに直ちに行動してしまう、刺激に対し、自分をコントロールできない、質問が終わらないうちに答えてしまう、遊びの順番が待てない、すぐにパニックになる、などがこれにあたります。

(4)発達・認知面

理解力はあるが表出能力が劣るという形で現れる発達性言語障害や、幼児期より不器用さやバランスの悪さという形で現れる発達性協応運動障害が見られることがあります。また、学習障害も30〜40%の子どもで見られます。

(5)行動・精神面

行動・精神面で問題になるのは、万引き・窃盗・傷害など、他人の基本的権利や年齢相応の社会的ルールや常識を侵す行為を持続的に行う行為障害です。行為障害の合併は予後不良の因子になることから注意が必要です。

この他に、反抗挑戦性障害(拒否的・敵意的・挑戦的態度はとるが、他人の基本的な権利は侵害しない)、適応障害、不登校、不安障害、気分障害、反社会的行動などもみられることがあり、成長とともに悪化する場合があります。

(6)身体面

チックの合併が30〜50%の頻度で見られ、ADHDの治療薬であるメチルフェニデートの服用によりチックが増悪することもあります。また、てんかんなどの合併が見られることがあります。

(7)二次的問題

基本症状を背景として、周囲の人との関連性の中で2次的な問題を生じることがあります。

集団行動ができない、待てない、対人関係を形成するのが困難といった、社会行動における問題(一定の決まりからの逸脱行動)や、集団生活・対人関係での失敗体験や被叱責体験の積み重ねから生じる、自尊心低下、自信喪失、敏感、対人緊張といった、心理特性としての問題(自我意識・対人意識の問題)などがこれにあたります。

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4.基本的な対応姿勢

怒らない、誉める、認めるを基本姿勢として接することが重要です。「自分はいてよい存在である、自分には価値がある、自分は周囲の人から思われている」と思わせ、 自己の存在意識を認識させ、自尊心の回復・維持を最終目標とします。また、具体的対応としては、崩壊性行動のコントロール・情緒の安定 ・学力の保障・合併症への対応などが求められます。

(1)崩壊性行動への対応

周囲が困るような行動のことをいいます。この行動が持続すると周囲の人との関係が悪化しやすく、結果的に一時的な精神面の問題が生じやすくなります。

まず、薬物療法で対応するとともに、周囲の大人が子供の行動をコントロールできるように助言・指導を行うことが求められます。そして、周囲からの刺激が多いと注意力障害や多動が強くなるため、刺激を少なくすることも必要です。

(2)情緒の安定

基本は、受容と共感、特に共感的理解が大切です。子どもの気持ちに寄り添うだけではなく、「私はあなたがこんなふうに感じると思ったんだけど、それでいいのかな?」といった態度で接します。また、子どもが自分自身の存在に自信が持てるような言葉がけや態度も重要です。

(3)学力の保障

無理のなく体得ができるようにサポートをします。一定の学力は本人の進路の選択肢を広げることになるからです。個別指導の場があるとさらに望ましいでしょう。

また、保護者はできればかかわらないほうがよいでしょう。それは、子どもができない状態を見ていると、感情的になりがちになってしまい、本来の役割である子どもの気持ちを支えることが難しくなるからです。

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5.家庭や園・学校でどのように 対応したら良いか
(1)家庭での対応

基本方針としては、まず社会での基本的なルールを繰り返し教えることです。時間がかかるかもしれませんが、繰り返し教えて、身につけるようにします。

二番目には、 ADHDの症状を1つ1つ変えていくことです。どうすれば、うまくやっていけるのか、困った時にはどうすればよいのかなどの問題解決の能力をつけていくことです。

三番目には、 自尊心の回復・維持です。自尊心を高め、子どもが自分のよいイメージを持ち、現在の自分を大切に思い、自分の弱点を知りながらも、少しずつ変わっていこうとする力や、自分のよい面を知って、それを伸ばして行こうとする力を育てることです。

また四番目としては、二次的問題を未然に防ぐことも大切です。 

そして、対応の際には、次のような原則に従うようにして下さい。

1.体罰・大声での叱責はやめる。
 厳しい罪はいかなる理由があろうとも、子どもに反発をおこさせるだけです。言うことを聞かないとして暴力で対応すれば、子どもはそれを学び、自分の兄弟や言うことを聞かない弱い子どもへの暴力を招きます。
2.悪い事は悪いという。
3.父母の間で共通の方針と一貫したしつけを行う。
 父と母で方針が異なりますと、子どもは戸惑ってしまいます。父と母で相談して、このやり方で行こうと決めたなら、それを一環して下さい。
4.気持ちを受け止める。
 他人への暴力はいけないことですが、それに至った経緯は本人なりには理由があります。その気持ちを受け止めましょう。落ち着けば自分がしたことが悪かったと反省します。
5.拒否的・批判的・支配的にならない。
 子どもが思うように育っていないという親の思いはわかりますが、その子の全てがダメ、できないことがありすぎる、いつも言うことを聞かないとしか評価されなければ、子どもも反応してはくれません。
6.突き放さない。
 子どもが親のいろいろな働きにうまく反応しなくてもあきらめないで下さい。子どもは親の愛を求めています。子どもを信じる気持ちがあれば、いつかは応えてくれます。
7.子供が親をコントロールしないようにする。
 ADHDの子どもは育てにくい為に、親も子どもの要求に従いがちになったり、甘やかせてしまうことがあります。何度いってもやらないからといってあきらめて親が後片付けをしてします、おねだりにすぐ応えてしまうなどを続けると、子どもは親をコントロールできるのではないかということを身につけてしまいます。そして、子どものの要求はさらに大きくなって、我慢をすることができなくなったり、後回しにすることができなくなります。
8.子供のペースに合わせる。

 ★実際に見られるトラブルへの対応

かんしゃくを起こす かんしゃくを起こした時はできる限り無視する。 周りの危険なものを取り除き、落ち着いてから話しを聞く。
基本的な日常生活の習慣が身につかない うまくできた時には褒美を、うまくいかなかった時は罰を与える。(行動療法。いわゆるアメとムチ)
但し、罰は厳し過ぎないように注意する。。
テレビゲームに夢中になる 時間を決める。 ゲームの時間と宿題の時間をはっきりと分ける。宿題や家事などをきちんとした時のご褒美として認めることもよい。
物を欲しがる 欲しがった時、すぐに与えるのではなく少し待たせる。
うそをつく その場を何とかしようとして嘘をついてしまうために、さらに問題を大きくすることがある。 失敗しても怒らず、本当のことを話せる環境作りが重要。
こづかいをあげてもすぐに使ってしまう、もっと欲しがる 一度に全部あげるのではなく、週1回などに小分けにして与える。
家のお金をとる 欲しい物を手に入れたい気持ちが強い時や、親ともめた時、学校で嫌なことがあった時に起こることがある。
ばれたら叱られるだろうと予測する力が弱いために、味をしめることも多い。
また、叱ったお母さんが悪いんだと言って自分の行動を正当化することもある。
対策として、子供の目の届く所に財布を置かない、家計簿などで お金の管理を親がしっかりする。
また、子供にとって厳しすぎないやり方で、返却させる(おこずかいを半分にする)ことも考慮する。
万引きをする 万引きも家のお金をとるのと同じで、うまくいくと繰り返す。
気付いた時にきちんと後始末する。
親が店に行って一緒にあやまり、代金を払うようにする。
   
(2)保育園・幼稚園でのトラブルへの対応
教室から出てしまう 教室以外に落ち着ける場所を作る   
友達を叩く 叩きそうになる前に止める。
叩かなかった日には大いに褒める。
友達と遊べない ルールがわからない、相手に合わせるのが難しいことから周りの子供と遊べないことがある。
先生が間に入り、遊び方を指導する。
運動会などの行事に参加できない 運動会の練習は何度も繰り返したり、順番を待ったりと ADHDの子供にとってはなかなか大変である。
子供ができる形での参加や参加できる種目だけでもよいことにする。

(3)学校での対応
1.席は刺激の少ない場所が良い。
 黒板に近いなど、できれば中央の最前列がよい。また、相性が悪く、衝突しそうな子とは距離を置くようにする。
2.教室のインテリアはシンプルで、刺激となる物は避ける。
 掲示物は視覚からの刺激となり、集中を妨げやすいので、なるべく後ろや廊下に置くようにする。水槽などの生き物も動く為、同様の注意が必要。
3.ルールや手順などを、簡単に紙に書いて見やすい場所に張る。
4.連絡帳を書く習慣を身につけさせる。
5.体操服の着替えなどに手間どるなら、体操服で登校させることを考える。
6.作文や絵が苦手な場合は、あらかじめ課題を知らせて、家である程度考えてきてもらう。
 こうすることにより、何を書いていいかわからなくなって、ぼんやり過ごすことがなくなる。  
7.宿題の量や質を子供に合わせて、加減する。
8.体罰はしない。注意する時はさりげなく言う。
9.教室以外に落ち着ける場所を用意する。
10.危ないことは危ない、いけないことはいけないときっぱりと指導する。
11.子供が落ち着いてから(ただし、忘れてしまう前に)不適切な行動を起こした時の気持ちをじっくり聞く。
12.相手に自分の考えを上手に伝えにくい場合は、伝え方を指導する。
13.掃除当番などにうまく参加できない場合は、具体的に役割を割りふって何をどうすればいいかわかりやすく指導する。
14.先生と子供で合図を決めておき、問題が起きそうな時にはその合図を送ってもらい、トラブルが起こるのを未然に防ぐようにする。
15.ストレスのコントロールの仕方を具体的に教える。
 深呼吸、伸びをする、落ち着こう、負けても怒らないなど、自分に話しかけることで気持ちを落ち着かせ、ストレスや行動をコントロールする練習をする。

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6.薬物療法

ADHDの治療に最も一般的に使われるのが、中枢神経刺激薬のメチルフェニデート(商品名:リタリン)というお薬です。注意力障害や多動性に対しては有効ですが、衝動性・暴力的には効果が少ないと言われています。(但し、ADHDに対しては保険適応外、6歳未満は原則禁忌) 

メチルフェニデートの作用機序は、脳内の神経伝達物質であるドパミンやノルエピネフリン濃度を上昇させ、前頭部の機能を活性化することで、注意・刺激を改善させると推定されています。内服1〜2時間以内に、脳内濃度が最大となり、 4〜5時間後には作用がなくなります。投与は1日1回朝食後または、1日2回朝昼食後に服用します。

主な副作用は、不眠(寝付くことが平時よりも遅くなるので、午後5時以降は服用しない)、食欲低下(昼食後の服用後に起こりやすく、朝夕食後には起こりにくい)、けいれん閾値低下(けいれん発作を起こしやすくなる。以前はてんかんの患者には禁忌だったが、発作のコントロールができていれば慎重使用が可)の他、チックの誘発、過度の鎮静・興奮、腹痛、頭痛、吐気、めまい、口渇、便秘などを生じることもあります。

なお、薬物療法の開始に当たっては、「なぜ薬を飲み始めなければいけないの?」と必ず本人に説明することが必要です。「悪いことをしたので薬を飲まされる」と思い込む子どもが中にはいるからです。

有効率は70〜80%と言われていますが、強い不安やうつ症状のあるADHD児にはメチルフェニデートは反応しにくく、逆に症状の悪化を招くことがあります。

薬の服用により、症状がよくなったように見えますが、これは治癒したわけではなく、子供の脳機能や思考、感情、行動を一時的に正常化しているだけであることを忘れてはいけません。ですから薬物療法だけに頼るのは間違いで、他の治療を行うことも必要です。

厚生労働省の研究班の報告によれば、併存症のないADHDの98%でメチルフェニデートを第一選択にしています。チックを伴う場合は、ハロペリドールの併用、不安や抑うつ傾向を伴う場合は、SSRIや抗不安剤の併用、攻撃的問題を並存する時は、ハロペリドールやリスペリドン、カルバマゼピン等を併用するとしています。

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3.広汎性発達障害 (PDD:Pervasive developmental disorders)

「物事をよく憶えていたりする認知能力があるのに、対人的な情緒交流や社会的関係の樹立・発達がなされないという行動特徴があるものを、広汎性発達障害(PDD)といいます。

医学的(DSM-W)には、自閉性障害(Autistic disorder)、アスペルガー障害(Asperger's disorder)、レット障害(Rett's Disorder)、小児崩壊性障害(Childhood Disintegrativedisorder)、特定不能の広汎性発達障害(PDD-nos)が、PDDの下位分類として分類されます。

※ICDー10(WHOの国際疾病分類)では、広汎性発達障害の下位分類を自閉症、非定型自閉症、レット症候群、その他の小児(児童)期崩壊性障害、知的障害〈精神遅滞〉と常同運動に関連した過動性障害、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害と分類し、診断基準もDSM-Wによるものとは微妙に異なります。このため、しばしば用語の混乱が生じることがあるようです。

※広汎性発達障害は自閉症やアスペルガー症候群などという個々の独立したものではなく、広い連続体(スペクトル)の一部として捉えて、「自閉症スペクトル」という名で呼ばれることがあります。

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4.自閉性障害 (Autistic disorder)

1.概念

発達水準や精神年齢の低さからは説明できない、社会的な交流活動の質的障害、コミュニケーション行動の質的障害、限定された行動・関心・活動の常同的反復の3つの特徴を有する場合をいい、診断は、DSM-Wを用います。

※自閉性障害診断基準(DSM-W)(発達障害フォーラムにリンク)
    http://www.mdd-forum.net/pdd_teigi.htm

有病率は、1000人あたり2〜3人で、3〜4倍男児に多くみられます。10〜20%は原因疾患があるとされていますが、80〜90%は原因不明です。遺伝性の要因も関与しているのではないかと考えられています。

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2.症状
(1)社会的な交流活動の質的障害
@非言語性コミュニケーションの異常

視線が合わない、限られた人としか視線を合わせない、 親近感を相手の嫌がる方法で表現する(=相手の感情や周囲の状況が理解できず適切な反応ができない)、などがこれにあたります。

A対人関係の取り方

一人でいることを好む、自分が必要な時しか他人を利用しない、 クレーン現象(自分の要求を適切に表現できないため、欲しいものがあるときは、他人の手をとりそのものをとらせる)、模倣をしない、自分から動くことができない(指示がないと何をしていいか分からない)、自分の言いたいことは言うが、他人の話しは聞いていない、などがこれにあたります。

B遊び方

一人遊びに没頭している、気に入った遊びを常に行っている、親であっても、手を出されると怒り出したり、手をはねのける、 同年齢の子とは遊べない、 自分のやり方を押し通す、思うようにいかないと怒る、 ルールを無視する、自分はルールを守らないが、他人がルールを破ると怒る、などがこれにあたります。

C集団生活

みんなと一緒の活動ができない、やりたいことはするが、やりたくないことは絶対にやらない、恥ずかしいことがわからない、場の空気が読めず、ひんしゅくを買う言動を取ってしまう、などがこれにあたります。

(2)コミュニケーション行動の質的障害

言葉の発達が遅れる、同じことを繰り返して話す、反響言語(オーム返し)が多い、イントネーションや発声の仕方が不自然 、主体と客体を適切に逆転させられない(例:「もらう」を「あげる」と言ってしまう)、会話が成立しない、会話が一方的 ・ 言語を一般的でない意味で用いる、限定された意味で用いる、冗談や皮肉を理解できない、字面どおりの理解しかしない、などがこれにあたります。

(3)想像力の障害
@こだわり

物の並べ方や道順などが決まっている、日常生活の作業を同じ順番でやらないと気がすまない、いつもと違うことが起きるとパニックになる、気に入ったものにしか興味を示さない、などがこれにあたります。

A想像力の障害

物の一部分の反復的な操作に熱中する、手を目の前でヒラヒラさせる・パタパタするなどの常同的な運動、普段と違う活動が入ると対応できない、臨機応変な判断ができない、などがこれにあたります。

(4)その他の症状

次のような症状が並存することがあります。

@多動・注意集中困難

学童期になると改善する傾向があります。

A運動発達の異常・不器用

手先が不器用で手足の動きがぎこちない、乳児期では四つ這いがうまくできないことがあります。

B感覚刺激に対する反応の異常

大きな音に無反応でありながら、特定の音には小さな音でも過剰に反応したり、嫌いな音に対しては耳ふさぎの動作をすることがあります。

また、特定の物や光の点滅をじっと見入るなどの視覚の異常や、限られた食物しか口にしないといった味覚の異常、体に砂や水がつくことに対して極端に嫌がるといった触覚の異常、物を確かめる時に何でも臭いを嗅ぐといった臭覚の異常を示すこともあります。

C食行動の異常

特定の食べ物しか食べないなどの極端な偏食がこれにあたります。

D睡眠障害

乳児期から睡眠が不規則で、幼児期になっても就寝時間が一定しない、夜間に目を覚まして騒いだりする、などがこれにあたります。

E不登校などの不適応行動

授業に対するストレスや、友人関係の問題をきっかけに生じることがあります。

Fてんかん

自閉性障害の20〜30%の子どもに見られます。てんかん発作は主に思春期以降に見られますが、20歳代前半までに発作が見られなければ、心配はいらないでしょう。

※関連情報:自閉症とはどんな病気ですか?(埼玉県小児医療センターHPにリンク)
    http://www.pref.saitama.lg.jp/A80/BA03/05section/sinkei/autism.html

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3.年齢段階別症状
(1)1歳まで

愛着行動が乏しい(例:視線をあわせない、あやしても反応しない、社会的微笑が出現しない、人見知りをしない)、しがみつきの欠如(例:母親に抱かれた時に、手を母親に回すことをせずに母親の膝の上に座っているだけ) 、光や音に過敏、喃語が少ない、睡眠リズムの障害などが見られることがあります。

(2)1〜3歳まで

他の子供に無関心で、模倣行動がみられない、自己刺激的行動(例:手を振りながら走り回る、指を押さえる)が頻発し、表情が乏しい、儀式的な常同行動、自傷行為がある、排尿便のしつけが困難などの障害が見られることがあります。

(3)4〜12歳まで

周囲の人々や状況と関わりを持つことができない、コミュニケーションの目的で言葉を用いることがで きない、学習に乗り難いなどの障害が見られることがあります。

(4)12歳以降

自閉症状は軽減し、認知機能の障害が明らかとなり、行動量が減少し、自発性が低下する、羞恥心が乏しく、場面に相応する行動がとれず、時にパニックを起こす、自傷行為、睡眠障害、幻覚妄想状態を示すことがあります。

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4.基本的な対応姿勢

自閉性障害に対する治療の最終目標は、子供の健全な人格形成です。知識やスキルが向上しても、最終的に情緒的に不安定になり、さまざまな精神障害を発生したのでは、子どもの最終的なQOL(生活の質:quality of life)は低いものになってしまいます。

言語・認知面の問題を解決することも大事ですが、それだけにならないように注意する必要で、次のようなことを念頭に対応することが求められています。

(1)児への対応
@問題行動の軽減

問題行動が頻回にあると、訓練や教育効果は低くなり、また周囲の人との関係も悪くなります。問題行動が起こる原因(小さい子どもなら、空腹感や眠気などがこれにあたります)を考えて、原因を除去するとともに、他の行動に関心を向けさせたり、運動をさせる、軽い問題行動は無視することが必要です。

A心理面への対応

叱られてばかりいれば、自尊心が低下します。自尊心が回復できるような対応がまず必要です。

B発達面への対応

母子の関わりを豊かにしていく、適切な療育的対応を発達の段階に応じて行うことが必要です。

Cその他の対応

学習の保証や、併存症・合併症への対応を行うことが必要です。

(2)周囲への対応

保護者への安定化と対応能力の強化、学校の支援能力の強化などが求められています。

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5.家庭や園・学校でどのように対応したら良いか
(1)家庭での対応
1.身辺自立のための指導を行う。
 社会的スキル(社会の一員として、社会生活を送っていくうえで必要な対人的な能力)を身につけるため、衣服の着脱・手洗い・排泄・洗顔・食事などの身辺自立の指導は大切です。
2.感覚運動を養う。
 子どもが喜んだり、興味を示すようなことをできるだけ多く行ってあげて下さい。成長するためには、新しい経験をすることが必要だからです。徐々にでよいですから、身振りを交えて、表情豊かに接する、話しかけてあげて下さい。 
3.親子の共感性の充実させる。
 子どもの視線から、子どもが望むことを感じ取る、手を引かれたら、喜んで応じるなど親と子どもとの相互の共感性を持つことです。また、都合が付く範囲で、子どもと一緒の時間を多く持つようにして下さい。
4.視覚的に訴える。
 自閉性障害の子どもは、話し言葉で言われた情報の理解や処置が苦手ですが、目で見た情報の理解や処置は得意です。説明する時は、できるだけ字で書いて示すなどの視覚的に訴えることが必要です。  
 また、自閉性障害の子どもは、時間の配分も苦手です。スケジュール表を用いて、起床から就寝までの予定を書いてあげて下さい。
5.初体験の前に予告する。変更は最小限にする。
 自閉性障害の子どもは、初めてのことや環境の変化、突然の変更というのが苦手です。これは、これから起こることを自分でイメージすることが苦手なためだからです。
 初めての運動会などの場合には、前もって前年度の運動会のビデオを見せる、遠足ではパンフレットを前もって見せて、どういうところか説明しておくと、当日あまり不安にならなくてもすむことがあります。
 また、小学校に入学するときなどは、前もって小学校を見学して教室の様子を確認したり、通学路を歩いたりするとよいでしょう。 
 そして、毎日の生活もなるべく変化を少なくしましょう。朝起きてから寝るまで、毎日の流れはある程度しっかりと決めておきましょう。
6.会話に対して:できるだけ簡単に話す、具体的に指示する、「ダメ」はだめ、冗談は通じない、視線を合わす。
 あいまいの表現や冗談は理解しにくいので、名詞・動詞・形容詞の順で、できるだけ簡単に話すようにしましょう。また、代名詞の理解がしにくいので、「そのコップ」というように代名詞に名詞をつけて話すようにしましょう。指示があいまいだと、指示が理解できず、あれこれ考えたあげく、結局面倒くさくなって何もやらないということもあります。
 また、「ダメ」「違っている」「おかしい」などといった否定的な言葉にも敏感です。 自分が非難されたと思ってしまいます。こういった場合は同じ内容をできるだけ、「○○しよう」といった肯定的な表現で言うようにして下さい。
 具体的には、「走っちゃダメ」とは言わずに「ゆっくり歩いてみよう」というように話かけることです。
7.暴力に対して:一人で過ごせるスペースや時間の確保、本人専用の物を用意する、愛情表現を行う。
 自閉性障害の子どもは、やろうとしたことが達成できないと、絶望的な気持ちになります。そのために、行動や遊びが弟や妹に邪魔をされるのでないかと思い、暴力を振るうことがあります。対策として、本人が一人で誰にも邪魔されずに過ごせるスペースがあるとよいです。
 ゲームやビデオテープの取り合いで喧嘩になることもあります。できれば本人専用のものを用意し、本人のものを間違って使わないようにします。お菓子なども、個袋で一人一人に渡すほうがよいでしょう。
 また、本人の前で弟や妹を褒めたりしないといった配慮も必要です。本人の目には、両親は妹や弟しか愛していない、自分は嫌われていると感じてしまうからです。
8.刺激を避ける
 自閉性障害の子どもは、感覚に独特な過敏さを持っています。 ピストルの音が怖くて運動会に参加できないというのもこのためです。怖がる刺激はできるだけ避けるようにし、どうしても避けて通れない場合は、子どもを抱く、手をつなぐなどして、本人を安心させるようにして下さい。
9.穏やかにくつろげる家庭を。
 これには、お母さんの精神的な安定も必要です。時には、子どもから離れて休むことも考えましょう。

(2)保育園・幼稚園での対応
1.問題行動の裏には不安が隠れているので、まずその不安を取り除く。
2.できないのではなく、「やること」と「やり方」がわからないためなので、「今は何をやるのか」「どのようにしてやるのか」を丁寧に説明する。
3.遊び方の基本ルールがわからないために、子供同士で喧嘩になることがあります。きちんとルールを教えてあげる必要があります。

(3)学校での対応
1.スケジュールを示す。
2.席は落ち着ける場所に、できれば一番前がよい。
3.授業や行事の変更は最小限に。
4.不安を減らすための配慮を。
 不安が蓄積すると、パニックを起こすことがあります。もしパニックを起こしたときは、集団から離し、静かな場所で完全に落ち着くまで、待ってあげましょう。
 また、パニックを起こしたことに対して、叱らないようにして下さい。しかられると傷ついて、自分はダメな人間だと感じてしまうからです。
5.避難場所を決めておく。
 教室を出て行ってしまった子どもには、園長室・校長室・保健室など、逃げていける場所を決めてあげます。不安になったときの避難場所があって、そこにいる先生が受け入れてくれると、子どもは教室を飛び出したときに、必ずその部屋に行くようになります。迎えに行く時は、飛び出したことは叱らずに、「先生と一緒に教室に帰ろう」など、次の予定を具体的に伝えるとよいです。
6.友達とのトラブルをおこさないように良く観察する。
 トラブルは休み時間や掃除の時間に起こりやすいので、こういった時間帯は様子を見るようにして下さい。
7.子供の気持ちを聞いてあげる。
8.学習できる環境を作り、学習面でのサポートする。
9.先生同士の連携を。
 担任の先生は他の先生と連携して、どんな授業が苦手か、どんな時にトラブルが起きるのかといった情報交換を行って下さい。
10.心を許せる先生を見つけてあげましょう。
 自閉性障害の子どもは、人との相性が狭く、好きな先生・嫌いな先生がはっきりしています。
 子どもとの相性のよい先生、スクールカウンセラー、養護の先生などを担当に決めて、何かあったときにはその人が中心になって、本人の言い分を聞いてあげたり、仲裁に入ったりするとうまくいきます。
11.すぐに結果を求めない。

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6.薬物療法

薬物療法は、並存症状や二次的な適応障害に対して用いられ、自閉性障害の中核症状に対する根本的治療にはなりません。異常行動を軽減し、家庭や地域との適応を改善し、教育・療育の効果を上げるという視点で使用することが必要です。

具体的に薬物療法の対象となる症状は、パニック・自傷行為・攻撃性・不安・情緒不安定・知覚過敏・不眠などで、周囲への影響が大きい場合や、子どもの感情や身体に大きく影響する行動異常の場合に使用します。

(1)抗精神剤

神経伝達物質のドーパミンの働きが異常に高まると、情緒が不安定になったり、幻覚や妄想が現れてきます。ハロペリドール(商品名:セレネース)、 ピモジド(商品名:オーラップなど) 、 リスペリドン(商品名:リスパダール)などの抗精神剤は、このドーパミンの働きを抑えます。

(2)抗うつ剤

うつ症状は、脳内神経伝達物質のノルアドレナリンやセロトニンの不足が原因で起こるといわれています。クロミプラミン(商品名:アナフラニール)、SSRI(商品名:ルボックス)などの抗うつ剤は、これらの物質の働きを強めます。

(3)抗不安剤(ベンゾジアゼピン系)

いわゆる精神安定剤と呼ばれるもので、不安が強い時に働きが弱くなる神経伝達物質のGABAの働きを強めることで効果を発揮します。 

(4)抗てんかん剤

自閉性障害をもつ子どもは、てんかんを合併することがあります。抗けいれん剤のバルプロ酸(商品名:デパケンなど)や、カルバマゼピン(商品名:テグレトール)を使用します。これらの薬剤は、行動の改善もあるとされています。

(5)その他の薬剤

中枢神経刺激剤のメチルフェニデートや、炭酸リチウムを用いることがあります。

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5.医教連携の必要性と今後の対応

発達障害を持った子どもたちに対しては、園や学校、病院が協力して、一環した対応が必要です。当院では、園や学校を訪問し、担任との面談や電話などで連絡をとり、医教(教育)連携を行っています。

具体的には、「保育教育機関の長・担任・障害児担当者が病院を訪問、両親同席の元で面談」「電話による指導」「障害児保育を行っている保育園・幼稚園に対しては、すこやか巡回相談時に指導」という方法で行われいて、薬物療法と併用することにより、多くの症状改善が見られます。

しかし、家庭環境に問題があった事例(ADHDに対する認識が不足、受診・服薬の拒否、離婚・母親の多忙による通院の中断 など)や、学校の対応が不適切であった事例(ADHDに対する無理解、一人だけ特別扱いできないとする個別配慮の無理解、指導内容を学校への非難と誤解しての病院への不信感 など)では、症状の改善が見られないことがありました。

医教連携は有用ですが、医教連携を行うには、お互いの状況を十分に理解し、共通の問題意識の下に、包括的な援助を行っていく必要があります。そして、医教連携を行い、子どもの症状改善をはかるためには、次のような対応が必要と考えます。

(1)家族に対して
  • ADHDの正確かつ最新の情報を伝え、正しい知識を習得し、 家族での環境調整や医教連携の重要さを理解してもらう。
  • 家族が受容するまで、丁寧に時間をかけて説明する。
  • 生育環境に配慮し、両親の心情に共感的、同情的態度で接する。
(2)園や学校に対して
  • 教育現場の状況を十分に配慮し、お互いの立場を理解・尊重した上で、出来る事から実行してもらう。
  • ADHDに対する正しい知識を習得してもらうために研修会 の開催や資料を作成配布して啓蒙する。

【参考文献】
1.宮本信也:注意欠陥・多動障害の臨床、小児科 41:257-264、 2000
2.栗田広:広汎性発達障害、小児科 42:1927-1932、2001
3.司馬理英子:ADHD 子供が輝く親と教師の接し方、 主婦の友社、2001
4.司馬理英子:ADHDとアスペルガー症候群、主婦の友社、2003
5.橋本俊顕:広汎性発達障害の診断および治療・療育指導、 小児科 45:1621-1630、2004
6.並木典子、他:広汎性発達障害スクリーニング、小児科 45:1980-1988、2004
7.宮本信也:広汎性発達障害、小児内科 36:909-914、2004

文責:小嶋慎二

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講演の関連サイト等を紹介します。

発達障害者地域支援マニュアル(茨城県)

茨城県保健福祉部障害福祉課が2007年3月に作成したもので、発達障害の概念から年齢ごとの対応事例まで、詳しく掲載されています。
   http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/hoken/shofuku/kikaku/hattatu-manual/hattatusyougai-manyuaru.htm

軽度発達障害の理解と特別支援教育
 ―特別な教育的支援を必要としている子どもたち―

平成16年に奈良教育大学の公開講座として行われた報告集で、複数の講演とシンポジウムの記録が収録されています。
  http://dspace.nara-edu.ac.jp:8080/dspace/handle/10105/492

軽度発達障害フォーラム

ADHD、PDD、LD(学習障害)などの軽度発達障害に関する知識、薬物療法、相談機関などの情報を掲載したサイトです。
   http://www.mdd-forum.net/

子どもの軽度発達障害を理解する〜ADHD、LDを中心に
  (J-Health:心と体の健康情報サービスHP内)

  http://www.j-health.jp/egao/kenkou_kyositsu/152/index.html

『軽度発達障害』って何?
  (滋賀県:元気情報発信基地びぃめ〜るweb版サイト内)

  http://www.bmail.gr.jp/kodomo/syogai/index.html

日本発達障害ネットワーク(JDDNET)

  http://jddnet.jp/

発達協会(社団法人 精神発達障害指導教育協会)

  http://www.hattatsu.or.jp/

NPOえじそんくらぶ

ADHDの正しい理解の普及と、ADHDを持つ人々を支援もを目的に設立された団体で、自身がADHDである、薬剤師・臨床心理士の高山恵子氏が代表を務めています。
   http://www.e-club.jp/

 このサイト内にあるWhat's new?! 05’によれば、「ADHDの保険適用薬の早期承認」や、学校薬剤師が発達障害および薬物療法に関する理解促進を養護教諭とともに充実させる必要があるとする、「学校医、学校薬剤師に対する発達障害の研修の充実と、校内委員会への参画」などを盛りこんだ、「発達障害者に対する今後の制度・施策についての要望書」を2005年7月11日に提出したと伝えています。

『 ゆずりは 』〜LD等軽度発達障害児者親の会〜栃木県

  http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Cosmos/1307/

発達障害者支援に係る検討会(厚生労働省)

発達障害者支援法の施行(2005年4月1日)にあたり、政令で定める発達障害の定義等について検討し、発達障害者支援法の円滑な実施を目的として行われた検討会です。

 第1回(2005年1月18日開催)〜発達障害者支援法の概要他
   議事録 資料(HTML:厚労省) 資料(PDF:WAM NET)
 第2回(2005年1月24日開催)〜発達障害についての定義についての考え方
   議事録 資料(HTML:厚労省) 資料(PDF:WAM NET)
 第3回(2005年3月15日開催)
   議事録 資料(HTML:厚労省) 資料(PDF:WAM NET)

発達障害者支援施策について(厚労省2005年4月25日)

http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0412-1.html

発達障害者支援施策の概要(発達障害の現状と支援法について・発達障害者を支援する体制について)、発達障害者支援法発達障害者支援法施行令発達障害者支援法施行規則発達障害者支援法の施行について の情報が掲載されています。

子どもの心の診療に携わる専門の医師の養成に関する検討会(厚生労働省)

児童虐待が急増する中、 心身の発達障害や心の問題を抱える子どもの保護者の育児不安を解消することが児童虐待の防止にもつながることが認識されていますが、日本では心身症や精神疾患、虐待による心の問題や発達障害などの子どもの心の問題に対応できる小児科医及び児童精神科医が極めて少ないのが現状です。

この検討会は、子どもの心の診療に携わることのできる小児科や精神科などの専門の医師の養成方法について、総合的に研究する目的でつくられたもので、2006年3月には報告書がまとめられる予定です。資料や議事録を見ると、現場の取組み状況がおおよそつかめることができます。2006年3月には報告書としてまとめられています。

 子どもの心の診療医の養成に関する検討会・平成17年度報告書について
  (厚労省2006年4月20日掲載)
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/03/h0331-13.html
  
 第1回(2005年3月16日開催) 議事録 資料
 第2回(2005年4月20日開催) 議事録 資料
 第3回(2005年5月11日開催) 議事録 資料
 第4回(2005年6月29日開催) 議事録 資料
 第5回(2005年7月27日開催) 議事録 資料
 第6回(2005年10月5日開催) 議事録 資料
 第7回(2005年11月29日開催) 議事録 資料
 第8回(2006年1月18日開催) 議事録 資料
 第9回(2006年3月8日開催)       資料

第1回資料5の2には、下記のような関連資料が掲載されています。
  発達障害の現状と支援法について、発達障害について、発達障害者支援法のねらいと概要、ライフステージにおける発達障害者支援、発達障害者へ支援

KidsHealth http://kidshealth.org/

米国の子どもの健康に関するサイトです。

Recognizing and Treating ADHD in Adolescents and Adults(US・Pharmacist)

  http://www.uspharmacist.com/index.asp?page=ce/10135/default.htm

Clinical Practice Guideline: Treatment of the School-Aged Child With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder
  (PEDIATRICS Vol. 108 No. 4 October 2001, pp. 1033-1044)

  http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/full/108/4/1033

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