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第82回アポネットR研究会報告

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平成17年12月21日(水)  会場:足利市民プラザ101号室

参加者:32名(うち薬剤師28名)

1.ビデオ上映

認知症に関連した制度・法規(道路交通法・予防接種法、成人後見人制度など)
 地域におけるかかりつけ医の役割について

2.学術講演

「認知症介護の実際」
〜つむぎの里での生活支援〜

講 師:川島 香端美 先生
グループホーム「つむぎの里」施設長)

1.私たちの紹介

私たちの施設「つむぎの里」は、社会福祉法人こころみの会が経営母体です。こころみの会では25年来、風の子保育園という保育園事業を行い、また当初から、障害児保育などにも取り組んできましたが、今後は児童だけではなくて、高齢者の方にも力になれないかと考え、まず2002年2月に「つむぎの里居宅支援事務所」を開設し、次いでグループホームの開所を検討しました。

群馬県では、高崎や前橋など新幹線を使えば都会地よりもさほど遠くなく、面会もしやすいという地の利も相まって、グループホームが166ヶ所もあります。すでに企業の参入なども多く、私たちのような施設の開設が認められるまでには、いろいろと大変でした。そしてようやく2003年5月より、現在のグループホームの開所にこぎつけました。

グループホームの利用者の条件は、一般的には、「ある程度自立していて、共同生活が可能な方」とされていますが、私たちのところでは、緊急性があったり、家族が大変な状況な方になるべく利用するようにしてもらっています。当然要介護5の方など、認知症が重い方も受け入れていますが、役所からは「要介護5の人を入れて、大丈夫なのか? グループホームの趣旨を果たせるのか」といった注意を言われるなど、いい顔はされませんでした。

実際、はじめの1ヶ月半は大変でした。確かに認知症が重いほど、介護はたいへんでした。排泄や食事などで振り回されることもしばしばで、スタッフはトラブルの仲介に追われるような状態が続きました。しかし、その方が「どんな方なのか」「何をしたい方」なのかというのがわかるようになると、意外と普通の生活ができるものということもわかりました。食事のあと片付けだけではなく、中には調理の手伝いなど、認知症が重い方であっても、能力を最大限に引き出すことも可能だったのです。

だんだんそういったことがわかってくると、「こういうことがしたかったのかな」「こんなふうに思っているんだな」といったこともわかってきて、不思議と利用者さんとつながりができてきました。現在スタッフは、男性4名女性2名の常勤職員と、2名のパートという体制ですが、スタッフも安心して見守ることができ、利用者さんもゆったりと過ごすことができていると思います。

2.生活者としての役割を感じてもらうことが必要

私たちつむぎの里は、「生活者として 役割や趣味を持ち その人らしく生きがいのある 安らかな生活が 過ごせるように支援する」という理念の下、施設が運営されていますが、この仕事をしていて私は、「サービスを受ける存在・介護を受ける存在だけでは、人間は生きていけない。やはり、そこに生活というものが存在していなければ、自分の存在もない」ということを実感させられます。

つむぎの里では、グループホームの理念に沿って、次のようなことはなるべく、スタッフと一緒に利用者本人にやってもらっています。

1.掃除

朝の掃除などは、初めはスタッフだけで行っていました。しかしそのうち、利用者さんの何人かに声をかけて、一緒にほうきを持ってもらったりしているうちに、気が付いたらてんでバラバラですが、おのおのがいろいろなところを掃除してくれるようになりました。ある方などは、お客さんが来るんだとして玄関の掃除をしてくれます。片麻痺があって、ほうきが持てない方でも、皆が使う洗面台を洗ってくれたりもします。

2.買い物

買い物についても、利用者さん交互に一緒に近くのスーパーにいって、「どれがいいかねえ」といった話をしながら、一緒に買い物し、帰りには荷物をもってもらったりもします。

3.食事の準備

私たちは初めの頃は、コーヒーに砂糖もミルクをいれる、しょうゆやソースをおかずにかけるなど、サービスがよすぎるくらいに介助していました。しかし、スタッフの中から「それって、してあげているようだけど、自由を奪っていることにならない?」という意見が出され、それ以来は急須をテーブルに置いて、お茶のおかわりについては、スタッフから積極的に注ぎ足すことはやめるようにしました。ささやかだけれども、利用者さんたちに生活を返すといった取組みです。

実際、利用者の中にはもともと食事を作ることが好きな方もいて、実際自分で味付けをするといって胡麻和えを作る方もいます。またじゃがいもの皮むきなど、包丁をうまく使える方もいて、私たちの若いスタッフなどは逆に教えられたりもしてしまいます。

4.洗濯物

干したり、取り込んだり、たたんだりといったことは、スタッフが一緒に行います。

5.隣組への加入

この春からですが、隣組に加入しました。そのおかげで回覧板も回ってきて、その回覧板を利用者さんと次の家に利用者さんと持っていったりすることがあります。

これをきっかけに地域とのつながりができ、同じ区の子どものお祭りのなどには、御神輿の休憩所としてつむぎの里を使ってもらったりするようになりました。そして、お祭りでは子どもたちは、利用者さんから労らってもらったり、歓迎してもらったりします。

6.散髪

当初は、理容院などに行く時はスタッフが一緒に待っているということをしましたが、理容師の方と談笑する姿を見てからは、スタッフは送り迎えだけをするようにしています。

3.パンづくり

利用者さんを見ていると、「90歳になっても何歳になっても、何か社会の役に立ちたい、必要とされたい、そういうふうに願っているんだな」ということを感じます。女性の場合ですと、炊事や洗濯などといった家事での役割があり、社会の役にたっているという実感が得られるのかもしれませんが、男性の場合は、社会で仕事をされてきただけの人も少なくなく、そういった人たちにどんな役割があるか、どうすれば社会の役にたっているという実感を持ってもらえるか悩みます。利用者の姿を見ると、私も「自分の存在意義って何なんだろう」と考えさせられます。

そこで私たちは、仕事という実感があるのものとして、パンづくりをはじめてみました。今では、こねて・丸めて・発酵させるということは利用者さんにやってもらっています。最初はとまどいもありましたが、今は週1回つくって、隣の保育園において保育園の保護者さんに買ってもらったりしています。今では、これらの売上で得た金額の一部は旅行の費用や車いすの購入などにあてることができています。利用者さんからも、自分が何かをしている実感があるのか、大変喜ばれています。

4.排泄介助

生活介助の話になりますが、認知症の方は、「トイレにいきましょう」といっても、その言葉を理解することができません。認知症の軽い方でしたら、紙で大きく「トイレ」と書くことで、ある程度理解はできるのですが、認知症が進むと「トイレ」という字を見ることもできないのです。

こういったことに対し、スタッフは「ちょっと行きましょう」「お願いがあるんです」ということばをかけて、食前・食後・起床時など定時でトイレに誘導するようにしてします。するとそのうちに、尿とりパットが汚れなくなり、何となくいきたくなると席を立ったり、廊下をうろうろ歩いて何かを探すしぐさを示すようになります。

そのサインを見逃さず、トイレに誘導し、便座の横の丸イスにスタッフも腰掛けて、とりとめのない話をしながら排泄があれば、スタッフも「よかったね、出たね。スッキリしたよね。こんどは私の番だから」と声をかけます。私たちは、恥ずかしい思いをしない、介護されていると思わない援助ができればと考えています。

一方、入所者さんの多くは便秘がちです。散歩とか、水分をとるとか、食べ物など、いろいろ気をつけてはいるのですが、多くの方が頑固で、半数くらいの方は下剤を使っています。

また、認知症の方の中には便をしたあと、「便が何なのだろうか」とか「自分で始末してしまえ」と思うのか、手ですくってティッシュで丸めてしまうこともあります。初めてその光景を見た時はとてもショックでしたが、認知症の方では、排便のコントロールできないと、そのこと自体で落ち着かなくなってしまうのです。

5.入浴介助

お風呂については、原則的には夕方に入ってもらっていますが、寝る前に入りたいという人にはそのようにしています。

お風呂もトイレと同じように、一人一人、スタッフも裸になって一緒に入浴し、お風呂でスタッフと歌を歌うなどしています。これにより、安心するのか、お風呂というものがいやではなくなります。

6.利用者と薬

薬については、分包(一包化)してもらっています。薬を自分で管理できる人はだれもいらしゃいません。薬を飲まなくてはいけないとか、飲んだ、飲まないということもわかりません。

スタッフの方で、分包をしたものを置いてあげる方、自分で破いて薬だよといえば飲める方などひとりひとりの状態に応じて、服用方法は工夫しています。

また今はありがたいことに、お薬がでると、薬の作用と副作用を書いた説明書をもらえるので、利用者さんごとにファイルして、それをスタッフがきちんと目を通すようになっています。

また、眠剤についてですが、私たちのところでは誰も飲んでいません。

眠剤を飲むことで、どうしてもぼんやりしてしまします。トイレやどこかに行こうとしたときに、転倒する危険性があります。私たちは主治医と相談しながら、早期に眠剤が中止できないかを常に検討しています。

確かに入所の時点では、ほとんどの方がなんらかの薬を飲んでいます。しかし、早寝早起きの規則正しい生活習慣(就寝は早い方で午後7時半頃、また起床も早い方で4時半に起きる)のためか、私たちのところに入所してからは眠剤は必要としなくなります。入所前ほとんど夜間寝ないといった方でも、時間はかかりましたが、自然と眠れるようになり、不思議と夜間不穏になることもありませんでした。

7.介護者(家族)への支援

認知症を抱えている家族の精神的な負担は計り知れないものがあります。毎回毎回同じ話を聞かされる、いつどこへ行ってしまうかわからない、そんな中で、在宅での支援できるようにしています。また、私たちは介護者(家族者)の方への支援も重要だと考え、さまざまな要望にも応じています。

また、つむぎの里を利用の際には家族会があることを伝え、3ヶ月1回に集まってもらうようにしています。家族会では、「私たちはこんなふうに思って、こんなような支援をしています」というように、利用者の様子をできるだけ正直にお話しています。それにより、イベントなどには模擬店の協力など家族の方自身が楽しみにするくらい、積極的に参加をしていただいています。家族のある方からは、「つむぎの里は、親にとって離れに住んでいるようなものです」とお話頂き、また面会もかなり頻繁に行われていると思います。

8.最後に

つむぎの里を利用されている方と一緒に生活する中で、日々感動したり、喜びがあったり、発見があるなど、働く私たちにとっても、すごく毎日楽しみがあります。

私たちのところでは、隣が保育園で、障害児のデイサービスも行っています。私は、「高齢者も、子どもも、障害児も、障害者もみんな、人として感謝されたり、存在を認めてくれたり、やさしい言葉をかけてくれたり、楽しいところに一緒に出かけたりということは、だれもが思っていることだ。認知症の高齢者だから、特別でというものではない。」そんな気持ちで、仕事に取り組んで行きたいと思っています。

文責:小嶋慎二

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講演の補足です

1.グループホームとは

正式には、「認知症対応型共同生活介護」「認知症高齢者グループホーム」といい、認知症によって自立した生活が困難になった方々に対して、安心と尊厳のある生活を営むことを支援するために、少人数(5〜9人)で家族的な雰囲気で暮らす共同住居のことをいいます。

グループホームは1980年代の初頭にスウェーデンでの発祥したとされ、日本でも1997年に国の補助が始まってからは、急速にその数が増えています。(厚労省調査で2003年10月現在、3,831事業所・定員49,887人。別データでは、2004年10月現在、5,708ヶ所)

グループホームでは、一日中家庭的で落ち着いた雰囲気の中で生活が行われ、食事の支度や掃除、洗濯などについては、利用者の能力に応じて利用者・スタッフが一緒に行います。このことにより、認知症の高齢者の残っている能力が引き出され、認知症の症状の進行を穏やかにするといわれています。(MRO:Modified Reality Orientation:実際の生活による誘導)

施設により運営方針は様々で、買い物や散歩などで、入居者を積極的に外へ連れ出したり、病院へ通院する必要があれば付き添う施設がある一方、食事は施設で全て準備するなど、施設管理者の考え方で違いがあります。また、慢性疾患などで定期的な通院が必要な人は、受け入れないとしている施設もあるとのことです。

利用に必要な費用は、介護保険の自己負担(4万円弱)のほか、家賃、光熱費、食費、その他雑費で6万〜15万円、合計で毎月の支払いは10万〜19万円程度。入居時に、数十万円から数百万円の敷金や一時金が必要な施設もあります。介護保険制度の見直しで、特別養護老人ホームや老人保健施設との利用料の差は縮まったものの、まだ低所得者では利用が難しいという側面があります。

2.グループホームの第三者評価

グループホームは、入居者にとって落ち着いた暮らしの場となることが期待され、上記のように従来型入所施設の大規模で一方的、一律的なサービス提供になりがちな弊害を克服する在宅サービスとしても注目を集めています。しかしその一方で、運営の在り方如何によっては、外部の目が届かない密室的、閉鎖的な空間となる可能性があります。また、職員の質の確保、地域社会との交流も必要であり、利用者の急変時への対応、認知症および身体疾患の増悪への対応のために、医療機関及び介護保険施設(特別養護老人ホーム・老人保健施設等)等との連携も欠かせません。

厚労省では、2002年10月よりグループホームごとのサービスの格差解消のために、「運営理念」「生活空間づくり」「ケアサービス」「運営体制」の4つのカテゴリーについて、第三者による外部評価を制度化し、少なくとも年に1回は、各都道府県が選定した評価機関による外部評価を受ける仕組みをつくっています。また、この外部評価による結果は、利用者家族への送付、利用申し込みの際の重要事項説明書への添付 、グループホーム内での掲示の他、社会福祉・医療事業団が運営するWEBサイト「WAM NET」(http://www.wam.go.jp/)で公開されています。

3.外部評価項目と薬剤師

4つのカテゴリーの「グループホーム外部評価項目」は、自治体によりさまざまで、秋田県では作成にあたって薬剤師会が協力したことから、次のような薬や薬剤師に関するチェック事項が盛り込まれています。今後のグループホームにおける薬剤師の役割として、注目すべきでしょう。

○身体・薬剤拘束のないケアの実践
 身体拘束は行わないということをすべての職員が正しく認識しており、身体拘束(縛る等の行動制限他)のないケアを実践している。また、薬剤拘束に繋がらないように、医師、薬剤師等に相談出来る体制を築いている。(他県では、“薬剤拘束”については触れられていない)

○安眠の支援
 入居者一人ひとりの睡眠のパターンを把握し、夜眠れない入居者には、1日の生活リズムづくりを通した安眠策を取っている。また、薬剤の利用に当たっては、医師、薬剤師等に相談出来る体制を整えている。

○医療関係者への相談
 心身の変化や異常発生時に、気軽に相談できる医療関係者を確保している。(医師、歯科医師、薬剤師、保健婦、看護師、理学療法士等)

○服薬の支援
 職員は、入居者が使用する薬の目的や副作用、用法や用量を承知しており、入居者一人ひとりが医師、歯科医師、薬剤師等の指示どおりに服薬できるよう支援し、症状の変化を確認している。

4.つむぎの里はこんなところです

今回講演頂いた「つむぎの里」も、2005年3月に認知症介護研究・研修東京センターによる外部評価が行われ、WAM NETに下記のような概要が掲載されていました。

 落ち着いたたたずまいの新築されたホームであり、保育園が隣設され園児との交流の機会も多い。敷地は、低い竹垣はあるものの圧迫感のある塀や門扉はなく、出入りの自由な開放的な空間となっている。

 また、入居者と一緒に作業している広い畑もあり、収穫された野菜は、日々の食材として利用されている。若い職員が多い中、管理者とのコミュニケーションも十分に取れており、しっかりと共有された理念のもと入居者本位のケアを第一に考え、何事も禁じることなく、徘徊、排泄、入浴など、さりげなく寄り添うような支援がなされている。入居者の表情からも落ち着いた生活を送っているようすがうかがえる。

 ご家族や地域の関係づくりは、家族会での意見交換や毎月「つむぎ通信」を発行し広く配布したり、外出や家族旅行などの機会を多く取り入れたり と、ホームの理解が得られるよう、積極的な取り組みがみられ、信頼関係を構築しつつある。

 これから少しずつ時を重ねていくごとに、若い職員のさらなる成長や、地域との交流の深まりなども期待でき、将来が楽しみなホームである。

文責:小嶋慎二

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文献・引用サイト・関連リンク等を紹介します。

全国認知症グループホーム協会HP

 http://www.zenkoku-gh.jp/

やまのいグループホームのページ

 http://www.yamanoi.net/grouphome/index.htm

老後の住まい〜介護介護や看護が必要な人が入れる施設(3)
    (読売新聞2005年10月20日)

  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/fp/fp051020.htm

痴呆性高齢者グループホーム
    (第8回社会保障審議会介護保険部会資料 2004年1月26日開催)

  http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-7e12.html

痴呆性高齢者グループホームに関する調査結果について(厚労省老健局計画課調べ)

  http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kaigi/040219/sankou09.html

グループホーム急増、2004年9月末時点で5708ヶ所に(Med Wave 2005.1.27)

  http://medwave2.nikkeibp.co.jp/wcs/leaf?CID=onair/medwave/tpic/355987

冷水豊[編著]:老いと社会(制度・臨床への老年学的アプローチ),有斐閣 (2002)

山井和則:体験ルポ 世界の高齢者福祉, 岩波新書 (1991)

秋田県グループホーム外部評価による医療適正化の効用
    (日本社会薬学会 第24年会講演要旨集(2005))

秋田県認知症高齢者グループホームサービス評価項目

  http://www.pref.akita.jp/korei/kaigohoken/gwgaibuhyokatop.htm

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