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第80回アポネットR研究会報告

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平成17年9月14日(水)  会場:足利プリオパレス

参加者:47名(うち薬剤師46名)

1.製品情報

広範囲経口抗菌製剤『クラビット錠』について

2.学術講演

「性感染症について」

講 師:隅田 能雄 先生
(足利赤十字病院 第二産婦人科部長)

1.はじめに

私は5・6年前より、足利市内や太田市、佐野市の高校で、性感染症についてのお話をさせて頂いています。学校の校長先生などからは、少しいきすぎた内容ではないかとのご意見を頂くこともありますが、「今、遊びで病気をもらってしまって、何年かして好きな人ができて、結婚して子どもをつくろう思ったときに、不妊症になっていたのでは泣くになけない」のです。ですから、先生方には「自分の体は自分で守る。将来のことを考える」という視点でお話させてしているということで、理解をしてもらっています。

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2.思春期の性をめぐる現状

人工妊娠中絶数は、341,146件(2000年)で、そのうち20歳未満の中絶数が44,477件と他の年齢層に比べて総数・伸びともに突出しています。

一方、(財)日本性教育協会が発表した『青少年の性行動』(わが国の中学生・高校生・大学生に関する第5回調査報告)によれば、「セックス経験のある」中学生は男子で3.9%、女子で3.0%、高校生は男子で26.5%、女子で23.7%、大学生は男子で62.5%、女子で50.3%と、大学生になると急増するというデータがあります。

さらに、性交時の避妊について尋ねると、「いつもしている」高校生は男子で51.5%、女子で47.6%、大学生男子で66.0%、女子で65.9%というデータがあります。

※詳しくは、(財)東京都予防医学協会HP内の若者の性行動と性感染症のページをご参考下さい。
     http://www.yobouigaku-tokyo.or.jp/lb29_std.htm

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3.思春期と性感染症

(1)性感染症とは

セックスやキスなどの性行為によってうつる病気、具体的にはクラミジア感染症・淋菌感染症・尖圭コンジローマ・性器ヘルペスウィルス感染症・トリコモナス腟炎・HIV感染症・毛じらみ症・梅毒などををまとめて呼ぶ名称です。

患者は20代に多く、男性より女性の方が多くなっています。このうち最近増えているのが、クラミジア感染症(16〜25歳の女性に多い)と淋菌感染症(男性に多い)です。

(2)性感染症の特徴

性感染症は次のような特徴があります。

  • 感染しても自覚症状が出ない場合があるので、感染に気づきにくい。
    (潜伏期間が長く、女性の場合は膣と尿道と別のために自覚症状が現れにくい)
  • セックスパートナーへの感染率は高い。(コンドームを使用しないとき)
  • 感染してから発症するまでの期間が長いものがある。その間に他の人にうつしまくる可能性がある。

即ち、知らないうちに自分が感染源になってしまうのです。そして、「知らないうちに相手からうつされた!」という非常に悲しい結果になってしまうのです。

(3)感染予防に無頓着な若者

それではなぜ、若い人たちに性感染症が増えたのでしょうか? それは、セックスを中学・高校時代に経験する人が増加したこと、複数の人・お金のため見ず知らずの人とセックスをする人が増えたこと(→複数になればなるほど当然危険が高い)、 そして何よりも避妊法・感染予防の方法を知らない場合が多いことが理由として挙げることができます。

実際、若い人たちの中には、「射精の時だけコンドームをすれば大丈夫」「腟外射精をすれば大丈夫」といったことを信じている人が少なくありません。しかしこれらは、感染予防にも、避妊方法としてもまったく意味はありません。オーラルセックスやアナルセックスなら、性感染症にかかりにくいというのも誤りです。オーラルセックスでは、性器にいる病原体を口やのどに運びますし、アナルセックスでは出血を起こしやすく、傷口から感染しやすいのです。事実、のどの唾液を培養すると、起縁菌が出てくることがしばしばあります。

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4.各種性感染症

(1)クラミジア感染症

細菌でもウイルスでもない、クラミジア・トラコマティスというものが原因で、潜伏期間は大体1〜2週間です。症状は女性の場合はおりものが増加する程度でほとんどありません。また男性でもほとんど無症状で、検査でようやく陽性(15〜30%)が見つかるのが現状です。

しかし、クラミジア感染症は症状がないからといって油断はできません。クラミジアによる炎症は腟から子宮頚管、卵管、腹腔に次第に広がります。このため、下腹部痛や性交痛を起こしたり、子宮内膜炎の原因になることがあります。また、腹腔内に癒着を起こして、妊娠しにくくなったり、子宮外妊娠や流産・早産の原因になることもあります。

さらにクラミジアはおなかの中にでてきて、横隔膜の下の肝臓のまわりにくもの巣のような巣をつくり、Fitz-High-Curtis症候群という肝周囲炎を起こすことがあります。深呼吸時など横隔膜が動く際に、右上腹部に強い痛みを訴えるが特徴で、この炎症はクラミジアの存在が認められなくなってからも長く続きます。

また、赤ちゃんにうつって、クラミジア性肺炎や結膜炎を起こすこともあり、クラミジア感染症は、とても怖い病気なのです。

当院では妊娠時にクラミジアの検査をするのですが、クラミジアの抗体を持つ方が大体3割から4割います。この場合には、母体への安全性を考え、エリスロマイシンまたは、アジスロマイシン(米国では第一選択)で治療します。

(2)淋菌感染症

淋菌を原因とし、潜伏期間3〜5日間です。 症状は、女性の場合ははじめ無症状ですが、その後強い下腹部痛を訴えます。男性の場合は、90%が排尿時に痛みを訴え、尿道から膿が排出されます。淋菌は菌としては弱いのですが、いわゆる耐性菌がかなり増えています。

淋菌の場合は、まず開業医にかかって、2種類も3種類も抗生物質を使って効かないとして、私たちのところに受診する人が少なくないようです。当然、強い抗生物質にも生き残っている耐性菌が相手になるので、治療は手こずります。

(3)性器ヘルペスウイルス感染症

原因は単純ヘルペスウイルスで、感染者とのセックスでうつります。潜伏期間は3〜7日間で、 症状としては、始め外陰部に小さな水疱ができ、やがてこれらが破れてびらん(ただれ)となります。そのときに、しみるとかちょっと痛むといった、外陰部の違和感程度であったのがやがて、痛みがピリピリとしたものさらには、激痛へと変わります。若者たちで言うところの「まじ痛い」「ちょ〜痛い」「めちゃ痛い」といった表現になるでしょうか。

(4)尖圭コンジローマ

原因はヒトパピローマウイルス(HPV) です。数は少ないのですが、最近増えてきているのではないかという実感があります。感染しても発症しないこともありますが、見てわかる症状は、外陰部に小さなイボができるくらいで、痛みもないために、腟・子宮へ広がっていくことはわかりません。

この病気で注意すべきことは、HPVの悪性型のものに感染すると子宮頸癌発症のリスクが200倍高くなることです。治療として、5-FU軟膏を使うことがありますが、あまり効果がなく、焼いてしまう方が良いような気がします。

(5)トリコモナス腟炎

原因はトリコモナス原虫で、性交渉だけでなく、まれに、浴場・プールでもうつることがあります。症状は、おりものが増える、外陰部がかゆい、臭うなどです。

この病気はピンポン感染といって、性交渉の相手と同時に治療をしないと、感染がいったりきたりしてしまうので、必ずパートナーと同時の治療が必要です。

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5.症状と対応

自覚症状や他覚症状から、どんな病気なのかの目安を示します。いずれの場合も、自己判断はせず、産婦人科に受診されることを望みます。

おりものが多い 痒みがある カンジダ膣炎
痒みがあり、臭う トリコモナス膣炎
痒みはない クラミジア・淋菌・膣炎(雑菌によるもの)
時々出血する 子宮膣部びらん
外陰部が痛くて我慢できない ピリピリと痛く、排尿時にしみる ヘルペスウイルス感染症
膣の入り口の外側に柔らかいしこりがある バルトリン腺膿瘍

では、「症状がなければ検査の必要はない?」と考える方も多いかもしれません。しかし、無症状のことが多いことも性感染症の特徴です。ですから、次のどれかに当てはまる場合は検査をした方がよいと考えます。

  • 年齢が10〜20代でセックスの経験があり、おりものが多い
  • セックスのパートナーが尿道炎
  • セックスのパートナーが何人もいる

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6.覚えておいて

(1)性感染症予防のポイント
  • 知らない人と性的接触を持たない
  • コンドームを確実に使う(途中からつけても意味がない)
  • オーラルセックスはしない(する場合はコンドームを使う)
(2)妊娠中に避けたい病気
1)風疹

妊娠3ヶ月以内にかかると、奇形の原因となります。風疹にかかったどうかは、抗体検査でわかるのですが、何年か前までは、風疹の抗体が8倍あれば安心だと言われていたのが、最近の厚労省の発表では、16倍ないと安心できないという見解に変わっています。当院では抗体が16倍くらいしかない方にはワクチンの摂取を勧めています。

2)水痘(みずぼうそう)

胎児自体に影響はありませんが、出産直前にかかると影響を及ぼすことが」あります。

3)麻疹(はしか)

4)流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)

妊婦は普通の時より免疫力が低下していて、重症化しやすいので注意が必要です。

文責:小嶋慎二

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関連リンクを紹介します。

ちゃんとちゃんと.com http://www.chanto-chanto.com.

STD(性感染症)の予防・検査を啓発する団体の“STD啓発ワーキンググループ”が運営するサイトです。

東府中病院ホームページ http://www5a.biglobe.ne.jp/~hhhp/index.htm

患者さん向け情報として、わが国における性感染症の現況というページの他、性器クラミジア感染症性器ヘルペスウイルス感染症淋菌感染症トリコモナス感染症/カンジダ感染症梅毒尖圭コンジロームなど、性感染症についての解説ページがあります。

東京都予防医学協会 http://www.yobouigaku-tokyo.or.jp/index.htm

クラミジア・トラコマチス、淋菌の年齢別陽性率の年次推移若者の性行動とSTD(性感染症)などの統計を用いた解説ページが充実しています。

思春期の性(意識と実態)(とちぎの子育て支援・栃木県HP)

http://www.pref.tochigi.jp/jidou/kosodate/shisyunki/04body02.html
栃木県内の高校生の性の実態、栃木県の10代の妊娠と中絶の現状、栃木県内性感染症の罹患状況などのページがあります。

厚生労働省:性感染症報告数(2005.4.11)

http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html

性感染症ってどんな病気(東京都福祉保健局健康安全室感染症対策課)

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kansen/sidou/

性感染症(STD)を知っていますか?(青森県)

http://www.pref.aomori.jp/std/index2.htm

「青少年の性行動について考える委員会」意見のまとめ(東京都2004.11)

http://www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/2004/11/40ebf202.htm

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