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第79回アポネットR研究会報告

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平成17年6月8日(水) 会場:足利プリオパレス

参加者:41名(うち薬剤師33名、看護師5名)

1.製品情報

長時間作用型吸入気管支拡張剤
          「スピリーバ 吸入用カプセル18μg 」 について

2.学術講演

『喫煙問題の光と影』
〜20世紀の嗜好品は21世紀の死向品〜

講 師:小林 淳 先生
(本田技研工業鞄ネ木製作所 健康管理センター所長)

1.はじめに

戦後しばらくは、「たばこくらい吸えなくては一人前な仕事はできない」とされ、中年世代では現在も喫煙する人が少なくありません。一方最近は、洗脳ともいえる効果的な宣伝や、自動販売機の普及、女性の社会進出などの影響で、ファッション感覚で吸う、若年層・女性の喫煙者が増えています。

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2.子どもたちや若者に忍び寄るたばこ

よく食後の一服というのがありますが、たばこを吸うと事実、胃腸が動くためかおなかの膨満感がとれます。また、腸を動かす作用もあることから、たばこを吸うとお通じがよくなります。高校生などでは、下痢になったりもしますが、うまくいくと快便となり、結果的にやせるということもあるようです。そのため、女子高校生の間では、たばこを吸うと太りにくくなるという認識が広がり、ダイエット目的で喫煙する人も少なくないのです。

特に近年は、たばこへの社会的風当たりが強まっていることから、ターゲットを子供や若者に絞った広告活動が展開されています。日本でのたばこの消費量は年間3200億本といわれていますが、約1.5%の50億本を子どもや未成年の若者が吸っていると推定されています。これを金額に直すと600億円、税収額に換算すると400億円となります。これが橋や道路、学校の財源になるのです。子どもから巻き上げて、大人が見過ごしているのです。

また、最近では規制されているようですが、ドラマなどで若い俳優などがたばこを吸うシーンをみかけます。こういったことも、若者の喫煙行動に影響を及ぼしていますし、残念なことに、今だたばこを子供に分け与える親たちがいます。

こういった状況から私は、たばこから自然に遠ざかるように、県内の子どもたちに対して、視覚や社会正義を訴える講演活動を96年より行っています。はじめは高校生が中心でしたが、低年齢への対策も必要と考え、最近は小中学生にも力を入れています。

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3.たばこの害

(1)喫煙は死亡を早めます

2004年6月26日号の英国医師会雑誌に紹介された論文、Mortality in relation to smoking: 50 years' observations on male British doctors(BMJ 328,1519-29:http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/328/7455/1519)によれば、34439人の英国男性医師について、50年間にわたり喫煙習慣と死亡の関係をモニターしたところ、1990年から1930年にかけて生まれた男性の喫煙者は非喫煙者に比べ、平均して10年早く死亡したことが明らかになっています。

(2)たばこには依存性があります。

ニコチンの依存性は、覚せい剤と同様と言っても過言ではなく、いったん習慣になると、ニコチンは脳細胞に残された杭と同じ状態となり、ニコチンの記憶として一生残ってしまうのです。米国ではこのたばこの依存性について、小学校の授業で消防士や警察官が、「ニコチンはマリファナやコカインと同じくらいかそれ以上危険なのですよ」と教えているのです。日本ではどうでしょうか? 大人でさえもあまり知りませんね。

(3)一酸化炭素

たばこの煙には酸素と比べて、赤血球との結合能が240倍も高い一酸化炭素が含まれています。まわりの人も含めて、それを吸うわけですから、一種の一酸化炭素中毒の状態に近づきます。

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4.日本で意外と一般に知られていない現実

(1)たばこ税は貴重な財源

日本のたばこ会社は、今も財務省が半分以上株式をもっているなど、国営企業的な色彩があります。また、経営がしっかりしなければ、税収が減ってしまうということもあり、保護されているのです。海外ではTVCMなどを通じて、大規模な禁煙キャンペーンを展開していますが、日本で対策が及び腰になるのは、どうもこういう理由のようです。

(2)危険な添加物

たばこには、ニコチンの吸収力を高めるアンモニア、依存性を高めるアセトアルデヒド、副流煙を見えにくくするピロリン酸カリウム、臭いを減らすポリアネオールなどの成分が、実は添加物として含まれています。このうちアンモニアについては、外国製のたばこには含まれていて、表示されている量以上のニコチンを吸収させる原因となっています。また、アンモニアはニコチンと反応して、発がん作用のあるニトロソアミンを生み出すという点でも、私は大変問題あると考えます。

(3)変わるたばこの包装の警告表示

たばこ規制枠組み条約によると、「警告表示はたばこ包装の前面と裏面の50%以上を占めるべきであり、主たる表示面の30%を下回るものであってはならない」として、日本でもようやく、「喫煙は、あなたにとって発がんの原因の一つとなります」という警告文が、今までよりも大きなスペースで表示されるようになるようです。しかし、日本の表示方法はインパクトが少なく、私から見ればインチキです。ちなみに、海外で販売されているたばこの警告表示はどうかというと、表示のサイズはこの規定より大きく、「Smoking Kills」といったストレートな表現を用いたり、絵柄(写真)を採用するなどして、視覚に訴えています。まだ外国のたばこの方が好感がも持てますね。

関連資料: たばこ規制枠組条約発行記念の催し記録集
           http://www.jcancer.jp/nonsmoking/tabaco.pdf
           (ファイルが約5.2MBと大きいので注意して下さい)

 「国際的なたばこ包装警告表示の進展」という項目で、ブラジル、シンガポール、タイ、オーストラリアでのたばこのパッケージ写真が掲載されています。

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5.職場での取り組み

私は職場では、常に有害性を知りつくしてもらう、中毒性を納得させる、恐怖を身近に感じさせる、たばこが原因の病気になったとして、その治療の費用を予想させるといったことを念頭において、禁煙指導の取り組みをおこなっています。

企業の産業医の立場なので、希望者にはニコチンパッチをどんどん配りましたし、またメールや配布物を通じて定期的な情報提供も行っています。この情報提供も、単に文書だけではなく、先ほど紹介した、諸外国のたばこの警告の絵柄(写真)や、たばこを使うとどう体が蝕まれていくかという実際の写真を添えるようにしています。視覚に訴えることは、かなり効果的で、実際これらの写真を見て、何人の人もが禁煙しました。

ただ、実際に取り組んでみて感じることは、冷やかしでニコチンパッチやニコチンガムを使うような人は、結局たばこの代わりになるだけで、何ら効果にもなりません。ですから、「たばこをやめたい」という人には、まず、「本当ですか?」と本人に意志を確認してから、禁煙補助剤の使用を始めるようにしています。

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6.禁煙指導での注意点

吸いたい相手の気持ちに共感し、あまり軽蔑をしないようにしましょう。憎むべきはニコチンであり、喫煙者は「ニコチンの奴隷=薬物依存症」という被害者なのです。私は、次のようなことをみなさんにおすすめします。

1.無理に勧めない

頭ごなしに責めるのでなく、患者さんと会う度に情熱を持って、少しづつたばこの害についてお話ししましょう。そうすれば、いつかは患者さんの方から「禁煙できました」と言ってくれる人も出てきます。

2.Xデー(禁煙開始日)を辛抱強く待つ

正しく、十分な情報を与えて、本人の判断・決断・行動を待ちましょう。

3.禁煙に失敗しても見捨てない

またがんばろうといって、愛情をもってサポートを続けましょう

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7.医療従事者はたばこを吸ってはいけない

医療従事者というのは、一般の人よりも「人間の健康」についてよく知っている立場です。ですから、一般の人たちが医療従事者も喫煙しているという事実を知ってしまうと、「本当は喫煙しても、あまり体に悪いことではないだろう」という誤った強烈な暗示を与えかねません。

では、患者さんが見えていない所ならいいだろうと思っても、これもいけません。吸っている気配はにおいなどですぐにわかってしまうからです。いくら本気でやっているという態度を示しても、その指導している人が吸っていたら、禁煙に取り組もうというする方に対して、説得力がありませんよね。ですから、医療従事者はたばこを吸うべきではありません。

本報告は、文献やWEB情報を参考に講演内容に一部加筆しています。

文責:小嶋慎二

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講演の補足です

●ニコチン代替療法剤について

ニコチン代替療法剤としては、まず1978年スイスでニコチンガムが認可され、現在までに多くの国で一般薬として販売されています。また、第2世代の薬剤としては1991年にニコチンパッチが認可、さらに第3世代の薬剤として、ニコチンの鼻腔スプレー、インヘラー、舌下錠が開発され、欧米では使用が開始されています。

ニコチン代替療法剤の認可状況

剤形 日本 米国 カナダ 豪州 ニュージーランド 英国
ガム
パッチ
鼻腔スプレー × ×
インヘラー ×
舌下錠 × ×

○:OTC(◎は要薬剤師薬) △:処方せん薬 ×:未承認  (文献2より)

文献1では、ニコチンガムやニコチンパッチのOTC化により、禁煙施行者数の増加、禁煙成功者数の増加、さらには喫煙関連疾患による死亡者数の減少、寿命の延伸にも貢献するという、海外の研究報告を紹介していますが、米国においては、OTC=自由販売というために、ニコチン代替療法剤を購入する喫煙者に対して、十分な情報提供が行われず、その結果、OTC化が必ずしも長期の禁煙率を向上させないのではないかとする米国の研究結果も紹介しています。

諸外国のニコチン代替療法剤の認可状況をみると、日本においてもガム・パッチ以外の剤形認可やOTC化がすすむ可能性があります。米国の研究結果を考慮すると、製薬メーカーによる一般への広報だけではなく、薬局・薬店での薬剤師による適切な情報提供といった、いわゆる禁煙指導がやはりきちんと行われる必要があります。

薬剤師会では、禁煙指導に関するツールやマニュアルを提供しています。現場では、これらを活用するのも一つの方法でしょう。

・日本薬剤師会HP禁煙運動:http://www.nichiyaku.or.jp/contents/kinen/default.html
    禁煙運動宣言ポスター[PDF]や、禁煙啓発パネル[GIF]が掲載されています。

・宮城県薬剤師会HPたばこ対策専門部会:http://www.mypha.or.jp/kinen.html
    薬剤師が行う禁煙指導マニュアル(概要版)の一部がダウンロードできます。
        http://www.mypha.or.jp/file/kinen_mnu.pdf

文献:
1.中村正和:一般用医薬品としてのニコチンガムの使い方と薬局薬剤師の役割,
   日薬雑誌 55(6),707-713(2003)
2.Non-Prescription Ingredients Classification Tables(WSMI - World Self-Medication Industry)
   URL:http://www.wsmi.org/otc.htm

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●煙の出ないたばこ(Smokeless Tobacco)

たばこというと、たばこの葉に紙を巻いてある「紙巻きたばこ」を思い浮かべますが、外国ではさまざまなタイプのたばこがあります。そのうち近年問題になっているのが、無煙たばこ(Smokeless Tobacco)です。

Smokeless Tobaccoには、アメリカの原住民から広まった「噛みたばこ(chewing tobacco)」と、南アメリカの先住民に始まり、その後フランスを中心としたヨーロッパやスカンジナビア半島で広まった、「嗅ぎたばこ(snuff)」がありますが、これらはたばこの葉を原料に作られたものです。このため、有害物質が口腔粘膜に直接触れる、ニコチンの吸収が早く、血中ニコチン濃度が極端に高くなるという点で、紙巻きタバコよりもリスクが大きいといわれています。

実際、貧困層の間で噛みたばこが習慣になっているスリランカでは、口腔がんが多発し、国家的課題になっているそうです。また、米国疾病管理予防センターによれば、米国の男子高校生の20%、女子高校生の2%がこの無煙たばこを使っていて、青少年向けのサイトでこれらの危険性を訴えています。

日本でも、「ファイヤーブレイク」の名前の噛みたばこや、「SNUS」(EUでは販売中止)と呼ばれる嗅ぎたばこが、「煙が出ないので副流煙の問題がない」、「火を使わないので嫌なにおいもない」というキャッチフレーズで、一部のたばこ販売店やインターネットを通じて、販売されています。これらは、ニコチン代替療法剤とは全く異なるものです。もし、愛用している人が周りにいたら、絶対にやめさせましょう。

下記サイトでは、ある歯科医が無煙たばこの危険性について写真入りで訴えています。

    禁煙ブームに悪乗り儲けようとする悪徳商法(市来歯科HP・鹿児島市)
      http://www.synapse.ne.jp/iichiki/index.24.htm

文献・参考:
1.Smokeless Tobacco(KidsHealth:TEENS Site)
   URL:http://kidshealth.org/teen/drug_alcohol/tobacco/smokeless.html
2.【楽天市場】煙の出ないたばこ URL:http://www.rakuten.co.jp/snus/
3.禁煙の補助:実践的問題解決塾,調剤と情報,10(5),673-675,2004
4.たばこ文化の広がり:葉巻・嗅ぎたばこ・噛みたばこ(たばこと塩の博物館HP)
   URL:http://www.jti.co.jp/Culture/museum/tabako/hirogari/hamaki-kagi.html
5.視察報告スリランカ(外務省) 
   URL:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/kaikaku/
       monitor/14m_hokoku/sisatu_houkoku/srilanka/06/srilanka_6.html#01

文責:小嶋慎二

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関連リンク等を紹介します。

・たばこに関するサイトは、本サイトのお役立ち情報のページを参考にして下さい。
     

お役立ち情報:たばこ

・たばこ規制枠組条約発行記念の催し記録集(ファイルが約5.2MBと大きいので注意して下さい)

      http://www.jcancer.jp/nonsmoking/tabaco.pdf

医師会や薬剤師会など関係団体の取り組み状況が紹介されています。

・海外には、たばこ専門の医学雑誌があり、WEBで電子版を見ることができます。

TC Online-Tobacco Control(http://tc.bmjjournals.com/

この雑誌では、日本におけるたばこ規制事情についての論文や記事がいくつも掲載されています

Japan:smoke clouds over the land of the rising sun
   (Tobacco Control 2003;12:8-10)

        http://tc.bmjjournals.com/cgi/content/full/12/1/8-a
女性をターゲットにした外国たばこの広告戦略を伝えるとともに、国民の健康よりも税収増を望む財務省の姿勢等を批判して、日本のたばこ規制に対する政策への疑問を投げかけています。

Japan:streets unsafe as machines prey on children
   (Tobcco Control 2000;9:129)

        http://tc.bmjjournals.com/cgi/content/full/9/2/129d
タイトルの通り、日本国内で増え続けるたばこの自動販売機が、青少年の喫煙を高めているという現状を伝えています。

この他にも、TVドラマの中での喫煙、絵本の中の喫煙、漫画の中の喫煙といったテーマで、日本の研究者が投稿しており、興味深い内容になっています。禁煙対策には、やはりりこういった観点からの対策や啓蒙も必要ではないかと改めて感じました。

やはり、薬局・薬店(ドラッグストア)だけでもたばこの販売はやめるべきではないでしょうか。こういった雑誌で世界の笑いものになりかねません。

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