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第77回アポネットR研究会報告

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平成17年4月13日(水)  会場:足利市民プラザ 総合会館センター

参加者:25名(うち薬剤師24名)

1.製品情報

SSRI「ルボックス錠」について
                      藤沢薬品工業株式会社 学術

2.学術講演

メンタルヘルスにおける薬物療法

講 師:根岸 協一郎先生
(足利富士見台病院・院長)

医療法人根岸会 足利富士見台病院のHPからのリンクです
http://www.negishikai.com/
根岸先生のプロフィール根岸先生の講演活動の一覧

1.はじめに

メンタルヘルス(精神保健)とは、「いろいろな病気の予防や理解をすること」「健康な生活をいかに送るか」を援助するためのものです。心療内科の現場では、6歳くらいから90歳以上の高齢者まで、幅広い世代の患者さんが来院しています。最近は、10歳代など低年齢の患者さんが多くなっているのが特徴です。

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2.ストレスが心や身体に対する影響

成人初期(22歳〜40歳)は、身体的にも精神的にも生涯で最も恵まれた力を持つ時期ですが、就職・結婚・出産・育児などストレスが重なる時期でもあります。職場環境に適応できない、仕事がうまくいかない、結婚生活がうまくいかない、妊娠・出産、育児ノイローゼなどをきっかけに、20代〜30代の女性を中心に、うつ病が発症することがあります。

また、女性の場合には、30〜40歳にかけて、スーパーウーマン症候群といって、めまいや息切れ、虚脱感といった症状を示す方がいます。これは仕事志向の強い女性の方が、そのキャリアから管理職的な立場になる一方で、職場の中で上司と部下との間での苦労や、家庭では妻や母を完璧にこなそうとするも、体力的に無理が生じてしまい、発症すると考えられています。症状から更年期障害と間違えられることがあります。

一方老年期においても、「退職した」「子供が独立して夫婦2人きりの生活になった」「配偶者が亡くなった」などの生活環境の変化をきっかけに、今まで元気でいた人が力を落として、無気力になったり、いろいろなことが心配になる、不安になるといったことが起きます。これらは、老年期うつ病です。症状が似ていることから、認知症(痴呆症)と間違われることが少なくありません。

認知症は、高齢者の7%くらいですが、うつ病の人も5%くらいいます。また、心気症((老人性神経症、心配性)といって、「自分の病気は治らない」と思い込んだり、妄想的になる高齢者の方を見かけることもあります。

ストレスは、どの年代でも心や身体に対してさまざまな影響を及ぼします。うつ病などの精神的な症状を表さない場合でも、身体の症状を表したり、社会的な問題行動を引き起こすことがあります。

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3.うつ病の診断

うつ病は、几帳面で神経質で、完全主義的な方がなりやすいといわれています。こういった人たちは、まじめできちんと仕事をやり遂げることから、職場からは有用とされ評価されることが多く、本人も無理をしがちです。20代30代は、こういったことも体力で乗り切ることができるのですが、やがて40代になるとそれができなくなってしまいます。その結果、うつ病を発症するのです。

2週間の間に、以下の9つの症状のうち、5つ以上存在し、その症状のうちの少なくとも一つが(1)(2)であれば、うつ病

(1) ほとんど1日中、そしてほぼ毎日ゆううつな気分である、とくに午前中調子が悪い
(2) ほぼすべての行動に、ほとんど1日中、そしてほぼ毎日、興味や楽しみがない、退屈だ、苦痛だ、価値を失う
(3) ダイエットが原因ではないのに体重が減る(または逆に体重が増える、体重の変動が多い)、食欲がなくなる(または増加する)ことがほぼ毎日続く
(4) 眠れない、不眠症(または逆に眠りすぎのこともある)が、ほぼ毎日ある
(5) 落ち着きがない、イライラする、または逆に動きが鈍い、何もできない、意欲ややる気が出ないことが、ほぼ毎日ある
(6) ほぼ毎日、疲れている、または元気がない
(7) 自分に対して自信がない、自信をなくす、自分に価値がない、または必要以上に罪悪感を抱くことがほぼ毎日ある
(8) 考えたり集中したりすることができない、または優柔不断になった状態がほぼ毎日ある
(9) 死についてよく考える、死んだほうが楽だと考える、自殺の計画をたてる、または自殺未遂をする

臨床の現場では、よく眠れない、朝早く目が覚める、寝つきが悪いといった睡眠に関する訴えの他、頭痛やめまい、ふらつき、耳鳴り、吐気、動悸などの症状を訴える方が少なくありません。

また、胃の調子が悪い、腰が痛い、頭が痛い、何かだるいといって、内科や婦人科で見てもらったがどこも異常がないとして、訪れる方もいます。心臓の病気や肺の病気ではないかと心配する人もいるので、血液検査など、まず内科的な病気がないかどうかを調べます。

うつ病のうち、双極性感情障害(躁うつ病)の場合は、家系的に遺伝することもありますが、一般的な単極性のものは遺伝性はありません。

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4.うつ病の治療

最近のSSRISNRIなどの薬剤は、副作用がほとんどなく、また数日から1週間で効果が認められることから、最近よく使われます。うつ病の方に、休息の指導とともにこれらの薬剤を処方すると、4週間位で大体7割くらいの方がよくなります。

続く治療開始から3ヶ月から6ヶ月のあいだは、ゆったりとした気分で継続治療をすることが大切な時期です。しかし、あらかじめ患者さんに服薬の必要性を話しておかないと、治ってしまったと思って、もう来なくなってしまうことが少なくありません。確かにそれで治ってしまう方もいらっしゃいますが、この時期でやめる人の多くは、「もうよくなった」と考え、徹夜やオーバーワークなどの無理をしてしまいます。そして、大体1年後再発して、再び来院するようになってしまうのです。

このような形で、服薬の中断・うつ病の再発悪化を繰り返すと、薬物治療を行っても治りが悪くなる傾向があります。そこで、 私は患者さんには、

「はじめの6ヶ月までは、薬を飲んでいるからよくなっているんですよ。薬を飲んでいるから維持できているのであって、薬をやめてしまうと、あなたの支えているエネルギーは急激に減ってしまいますよ」

「心のエネルギーの源は、食事と休息であり、うつ病は、その部分をストレスにより制限されて、セロトニンが枯渇するために起こるのです。車に例えれば、ガス欠で車が走らないのがあなたの状態です。

ではガソリンを満タンにすれば走れるかというと、薬で一ヶ月かけないと満タンにすることができないのです。だから調子がよくなって、どんどん動いてしまうととガソリンがまたどんどん減ってしまいます。それを安定させるには3ヶ月から6ヶ月かかるのです」

といった言葉で、服用の必要性を説明しています。

また休養も薬物治療と並んで大切な治療です。睡眠を十分にとる、なるべく仕事を早く切り上げて自由な時間を増やして、リラックスするといったことが大切で、必要に応じて診断書を書くなどして、休養を促すようにしています。

ただ、大企業や学校の先生といった公務員の場合はいいのですが、診断書を書くことで会社をクビにさせられるしまうこともあるので、すぐに診断書を書かない場合もあります。こういった方には外来に定期的に通院してもらうか、薬の量を増やすなどで対応しています。

抗うつ薬の副作用ですが、副作用の症状がうつ病そのものの症状と似ているために、患者さんの中には「薬を飲むことによって、症状が悪くなった」と訴えることが少なくありません。口渇・便秘・排尿障害といった症状がそうで、抗コリン作用の強い第一世代の薬剤で多く見かけます。

一方、最近のSSRIやSNRIなどの薬剤は、こういった副作用はほとんどなく、吐気などの胃腸障害が起こることがあります。ただこれも、最初の1週間について胃薬の併用といった副作用対策をして、きちんと飲んでもらえれば、ほとんど満足な結果が得られています。また、SSRIなどはあせって服用量を急激に減らすと、薬による離脱症状といって、急に眠れない、興奮するといった症状を示すことがあるので、ゆっくり時間をかけて減量することが必要です。

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5.思春期のうつ病

また最近では、児童思春期の子供たちにも、うつ病をみかけることも少なくありません。学童期(小学生)で2.5%、青年期(中高校生)では8〜10%の有病率があるといわれています。症状は、一般のうつ病の症状に加え、おなかが痛い、気持ちが悪い、いらいらする、頭が痛い、学校に行きたくない、下痢をするといった症状を訴えることがあります。

米国等では、社会的引きこもりや不登校の子に対し、フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)が有効という報告があることから、これらの薬剤を少量使うことがあります。ただ、自殺念慮や自殺企図(特にパロキセチンはこの傾向が強い)を高めることから、本人・家族の同意を得てから処方をしています。実際これだけで、約3割くらいは学校に行けるようになります。しかし中には、うつ病の症状を示していても、統合失調症人格障害の初発の場合ということがあり、3割くらいの方には効果がありません。

また、思春期うつ病は薬物治療に加え、心理的・教育的アプローチ(心理療法)も必要です。本人とご家族に病気の内容を説明して、薬を飲むことの必要性や家族の対応が大事であることを説明します。また、「夜更かしをしない」「焦らない」「学校は休んでもいいんだよ」というような教育的な介入も行います。

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6.認知症(痴呆症)の診断と治療

「何度も同じことをいう」「『ものが盗まれた』など、被害的な言動が多くなる」「よく道に迷うようになる」「人に失礼なことをするようになる」「服が乱れても気にならない」「会話に『あれ』『これ』『それ』が多くなる」といったことは、ボケの危険信号と知られていますが、家族は案外、「年のせいだから」といってあまり心配しないようです。しかし、さすがに「蛇口やガスの栓をしめ忘れる」「薬の管理ができなくなった」ということがあると、心配になって私たちのところを訪れます。

臨床ではまず、アルツハイマー型(認知症の全体の約60%を占める)なのか、それとも血管性なのか、どのステージ(症状の進行具合)にあるか、社会生活影響を及ぼす、精神症状が著しいかどうかなどの正確な診断を行います。特に、「物忘れ・意欲低下」といった痴呆症の症状は、うつ病や甲状腺機能低下(約15%)でも見られるので、問診と臨床検査、MRI・CTなどの画像診断、各種心理テストなどで診断を確定します。

さらに当院ではこの他に、頭部MRIでの海馬面積測定や正確に且つ客観的に記憶機能を判定するための神経心理学的検査として、STM-COMET(St.Marianna University School of Medicine's Computerized memory Test、聖マリアンナ医大式コンピュータ化記憶機能検査)という、加齢による記憶力低下と、アルツハイマー型痴呆による記憶障害の鑑別を支援するパソコンを使ったコンピュータープログラムを用いて、MCI(mild congnitive impairment、軽度認知機能障害)の早期診断に努めています。

認知症(痴呆症)の症状と治療



一般診療科では、上記の随伴症状にエチゾラム(デパス)などの抗不安薬を用いる傾向がありますが、あまり好ましくありません。痴呆を悪化させたり、せん妄を起こしたり、転倒の原因となるからです。錐体外路系の副作用に注意しながら抗精神病薬を用いるのが先決で、それでもうまくいかないときに抗不安薬を追加すべきと考えています。特に高齢者は、抗不安薬やバルビツレート系といった薬剤は体にたまりやすく、使用は避けて頂きたいと考えています。

私は抗不安薬をやむを得ず使う場合には、ロラゼパム(ワイパックス)といった、半減期の短いものや活性代謝物の少ないのを使うようにしています。ですから高齢者には、ニトラゼパム(ベンザリン、ネルボン)クアゼパム(ドラール)は、まず使いません。また、トリアゾラム(ハルシオン)も、反跳性不眠が強いことから絶対に使いません。紹介の患者さんで、エチゾラム(デパス)が処方されていれば、まずこれを減量するようにしています。

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7.薬剤師さんに気をつけてもらいたいこと

抗うつ薬は、うつ病ではなく、うつ状態の方などにも広く用いられています。境界型人格障害といって、うつ状態の仮面をかぶった人格レベルの問題を抱えた方などがそうで、最近は若い人に多く見かけます。こういった人たちは、「OD(オーバードーズ)した」といって、薬をためこんで、100錠、200錠と、一度にまとめて処方した薬を飲んでしまうことがあるので注意が必要です。

こういった患者さんは、くすりをたくさん欲しがる傾向があるので、私は種類が少なく、投与量・投与回数が少ない患者さん以外は、長期処方はしないようにしています。ですから、長期処方を望むこういった患者さんには「心のくすりは原則1週間です」と言っていただければと思います。

文責:小嶋慎二

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関連リンク等を紹介します。

★STM-COMETについては、下記のサイトを参考にしました
認知症(痴ほう症) アルツハイマー病 医療情報公開ホームページ

 http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/ALZNIKKEIMED9906.html

(医)川瀬神経内科クリニックホームページ

 http://www.kawase-nc.or.jp/STM.html

聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室ホームページ

 http://www.mariannapsycho.jp/11_Clinical/Centers/Dementiacentor_Contents.htm

メンタルヘルスに関するサイト等は、お役立ち情報「心の健康問題」でチェックを

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