☆ コラム

  2010/8/19「誰のための議会、誰のための政治なのか

       今月17日、名古屋市では市議会の解散請求(リコール)書が市選挙管
      理委員会に提出され、議会解散への動きが本格化した。その中心人物は河
      村たかし名古屋市長である。河村市長は市民税10%減税と地域予算の使
      い道を決める地域委員会継続の公約や、議員報酬を半減の800万円とす
      る政策が議会によって阻まれていると指摘している。こうした状況を打開
      するための市議会解散請求である。一方、当の市議会は市長主導のリコー
      ルは、首長と議会が対等な2元代表制を覆す行為であり遺憾、としている。
       河村市長の「税金を払う方が苦労し、税金で食う方が楽をする政治を変
      えたい」との発言には同感もするが、考えさせられる点もある。現在地方
      議会でも、議員報酬のみで生計を立てている専業議員が増えている。そう
      した現状をいきなり日当制にするのは無理があろう。もし、日当制にすれ
      ば大幅な歳出削減につながる。しかし、議員に立候補できる人は、資産家
      や比較的自由度の高い自営業者、定年退職者などに限られてしまうおそれ
      がある。また、「市民による議会」を目指して主婦や学生など幅広い層に
      よる議会を想定するなら、議会の開催を平日の夜や土日にするなどの変更
      以外に、よりお金のかからない選挙を実現させる必要がある。さらに、広
      範囲にわたる議案を、果たして片手間の議員で本当に掘り下げた議論がで
      きるのか、といった疑問もある。
       市長主導のリコールを行うなかで、「税金を払う方が苦労し、税金で食
      う方が楽をする政治を変えたい」と言うなら、それを実現させるための議
      会のあり方、地方自治のあり方、そして、市民のあり方も同時に考えなく
      ては、単なる議員たたき、公務員たたきであり、結果として市長の独裁を
      強めるだけになってしまうのではないか。河村市長には長期的なビジョン
      もぜひ示して欲しい。

       一方、鹿児島県の阿久根市では16日、竹原信一市長のリコール手続き
      に入ったとの報道がなされた。こちらは独裁的な市長に対するリコールの
      動きである。しかし、一般市民と比較して高額な市職員の給与を明らかに
      し、人件費削減などの政策を評価する市民もいる。阿久根市でも根幹にあ
      るのは議員報酬や公務員給与への市民の不満であり、「税金を払う方が苦
      労し、税金で食う方が楽をする政治を変えたい」につながってくる。しか
      し、それが単にひがみやっかみのレベルであるなら、結局何も変わらない
      であろう。名古屋市同様、阿久根市の今後の動向も注目していきたい。

       上記の例はまさに今、日本の政治のあり方が大きく変わり始めているこ
      とを示していると私は考えている。地方分権から最近は「地域主権」と言
      われるようになってきた。しかし、現状の地方政治の能力では権限委譲さ
      れてもまっとうな政治が行えないのではないかといった声もある。また、
      強い地域と弱い地域の格差が大きくなり、今以上の格差社会になってしま
      う可能性を指摘する声もある。
       地方議会・地方自治のあるべき姿としては、前述したような「市民によ
      る議会」といった方向性以外に、議員数を大幅に削減し、より専門性のあ
      る議員による議会、さらに、海外でみられるような議院内閣制(日本の国
      会のような仕組み)などが選択肢として考えられる。自分たちのまちをど
      のようにして運営していくのか、地方自治のあるべき姿は、市議会や県議
      会、ましてや総務省が決めるのではなく、そこに住む住民が責任をもって
      決める必要性がある。また、そうしなければ真の改革は実現しない。