「ニューヨーク大洪水!」

前回の地下鉄コラムに引き続き、もう一件地下鉄にまつわる最新の事件のご報告です。
 

フロリダ州 で猛威を奮ったハリケーン「フランセス」の崩れた熱帯低気圧が通過した9月8日未明のニューヨークで、3時間あまりに渡って3.25インチ(82ミリ)の大雨が降りました。この雨のために、市内のあちこちで洪水が起きて道路が冠水したり、地下鉄の駅の構内や線路の浸水で電車が不通となったり、駅が閉鎖されるなどして、殆どの路線が影響を受け、朝のラッシュ時に交通に大混乱を来たしました。当局の説明によれば、短時間に起こった集中豪雨のため雨量が地下鉄全体の通常の排水量の基準値を遥かに上回ってしまった、ということでしたが、実はニューヨークでは今からちょうど5年ほど前にも同様のことが起きており、やはり朝のラッシュ時の交通が完全にマヒしたことがあったのです。今回はその時の教訓が生かされなかったばかりでなく、問題となったシステムそのものが全く改善されていなかったことが露呈して、市民は怒りの声を上げています。
 
 


私自身も そのとばっちりをモロに受けた一人でした。家を出た時点ではピークは過ぎていたものの時折ザーッと激しくなる雨をついて最寄のジャクソンハイツ駅に着いたところ、入口にできていた人だかりに一瞬イヤーな予感はしたのです。中に入ってみると、案の定、ホームに降りる階段がふさがれていて、駅員が大きな声で「マンハッタン行きの電車は全部止まっている。動いているのは(高架線を走っている)7番線だけだ。」と叫んでいます。その時は多分ちょっとした事故か、信号機の故障か何かだろうと思っていたのですが、これが実はちっとも「ちょっとした」ことではなかったことがやがて判明するのですが、その時は何が起こったのかさっぱりわからず、少なくとも、7番が動いているのなら、少々混むのは我慢してもマンハッタンにはさほど時間のロスもなく辿り着けるはず、と高をくくって階段を三階分駆け上がって(この頃はまだそんな元気があった…)上の駅に向かったのです。階段を上がったところに乗客を誘導するために警官が立っており、「マンハッタンに行く人は、ここから乗らずに(反対方向に3駅行った)ジャンクション・ブールバード駅から急行に乗れ」と声を張り上げて説明しています。どうやら、動いていないE、F、R線から流れた客が殺到して各駅停車の電車に相当の遅れが出ている様子。言われた通りに、反対方向の電車に乗って、ジャンクション駅に行ってみると、今の時間、急行は走っておらず全部各駅停車になっている、というではないですか。嘘つきー!と思いながら仕方なくホームに止まっている電車に乗り込んだものの、遅々として進まない電車に次第にイラついて来ます。なにしろちょっと動いては止まり、またトロトロ動いたかと思うと止まり、といった具合でなかなか先に進みません。そうこうしているうちに、隣の線路を、走っていないはずだった急行がこれ見よがしにスーッと通過していくではないですか、それもガラすきで!騙されたーッ、と気がついても後の祭りです。こみ上げる怒りを抑えつつ、果てしなく長い時間をかけてようやくマンハッタンのグランド・セントラル駅に着き、ここでレキシントン線の4番に乗り換えようと思った矢先にアナウンスがあり、「レキシントン線は上下線共に動いていません。」というではないですか。さて、ここでまたこれを素直に信じてよいものかどうか、一瞬ためらいましたが、それならそれで、終点のタイムズスクエア駅まで出て2、3番線に乗り換えても、目的地であるウォール・ストリート駅には出られると思い直して、そのまま終点へと向かったのです。結局これが正解で、2、3番の線はその時点でタイムズスクエアより北は全部止まっており、ここで折り返し運転となってダウンタウンとブルックリン方面にしか行っていなかったのです。お陰でそれから先はさほど混みあうこともなく、比較的順調に、10数分でウォール・ストリートに辿り着くことができたのですが、クイーンズの我が家からダウンタウンのウォール・ストリートまで、普段なら1時間もかからずに行けるはずのところを何と2時間以上もかけて大旅行してしまいました。周りの乗客も一様にうんざりした表情で足早にそれぞれのオフィスに向かっていましたが、とにかくオフィスに着いた頃はもうグッタリでした。この日は終日、地下鉄は完全には復旧せず、遅れは夕方以降も続いたのでした。夜になってあらためてニュースを見ていたら、どこかの駅のホームに大雨が降っていました。地下なのに、ですよ!


真冬に どんな大雪が降っても、決して止まることのない地下鉄のはずなのに、あれしきの雨で完全にマヒしてしまうなどとは恐らく誰も想像しなかったことでしょう。しかし、実際には、前にも書いた通り、これが初めてではないのです。以前に、友人の一人が冗談でこんなことを言っていたことがあります。「ニューヨークの地下鉄は、雨が降ると遅れる。でも晴れていても遅れるし、曇っていても遅れる」。「つまり、まともに走る日なんてないってこと?」「いや、雪の日だけはちゃんと走る」。こんなジョークもあながちジョークでは済まされないようです。そこで、今回の教訓その1.「雨の朝はできるだけ早く家を出ること」。教訓その2.「駅員や車掌、警官の案内や誘導は決して鵜呑みにしないこと」。彼らが常に最新の状況を的確に把握しているとは限りません。しばし、情報が交錯し、混乱します。これについて後に、「これが天候のせいではなくて、万が一テロだったらどうするんだ!」という厳しい指摘があったのも、まさにニューヨークならではということでしょう。



天気予報 では、翌朝も雨。従って前日の二の舞とならないよう十分注意するようにとさんざん脅かすものだから、次の日は覚悟してかなり早めに家を出たのですが、雨は殆ど降らず、また、地下鉄の方も少しは反省したとみえて真面目に走ってくれたおかげで、オフィスには早く着きすぎてしまいました。教訓その3.「天気予報のキャスターの言うことも鵜呑みにするなかれ」。
 

  2004年9月10日

あいばいくこ   


▲ページのトップ

▲FROM NEW YORKのページに戻る

ホームに戻る